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日本の温泉地再生への提言 [31] -第2グループ 医学

温泉地の再生のあり方

及川 信哉
(曙光会)医療法人社団 曙光会 理事長


健康のための温泉利用

 来るべき高齢化社会を迎え、今後予防医学を重視する必要があると考える。温泉は正しく利用すれば健康を保持する事が、またある種の疾患に対しては治療効果を得る事が期待できる。病気を発症してから治療するのではなく、未病の段階で予防し、将来の発症を防ぐ努力を行なうべきであり、それこそが今後求められる医療の姿であると考える。予防医学の実践、未病の対応には様々なアプローチがあると考えるが、温泉を利用した健康保養プログラムはその一端を担う事が可能であると考える。温泉療法の適応は生活習慣病が主体となると考えられるが、健康保養地においては運動療法、栄養療法を組み合わせ、また必要に応じて薬物療法を組み合わせながら、利用者の個別性に応じた健康保養プログラムを作成し、利用者の健康の改善、保持、向上を求めていく。

温泉地の再生のあり方

 日本は世界でも有数の温泉国で、我々日本人も温泉に対し愛着を持ち生活してきました。日本人は温泉が体調を整えることができるという事を体験的に熟知し、そして長い間実践してきたのです。今でも温泉を療養のために利用する人は少なくありません。しかしここ数十年の日本においては温泉地イコール歓楽地というイメージの方が一般的で、多くの人が日頃の憂さ晴らしを求めて温泉を利用してきました。一夜限りの温泉利用も、気分転換という面では非常に効果的な部分もあるかと考えますし、その人の良い思い出となるかもしれません。しかしそれは温泉の持つ本来の効果を求めているのではなく、単に非日常の刺激を求めているに過ぎません。求める刺激は放っておけばどんどん過激なものを求め、従来のものでは飽き足らなくなってしまいます。温泉地も常に変化を作り出す事が求められ、利用者もそれを期待し、要求がどんどんエスカレートするといった悪循環に陥る事となります。実際温泉地のハード面ばかりが取り上げられ、温泉の持つ本来の効果は二の次、三の次になっているという現状があります。歓楽的な楽しみはけっして否定されるものではなく、疲れ、閉塞しきった気持ちと体をリフレッシュするためには有効なこともあると考えますが、もっと温泉の持つ本来の力に触れる機会を増やして頂き、その効果を十分に味わって正しく温泉を利用して頂きたいと考えます。更に温泉地に対しては歓楽地としてだけでなく、健康保養地として、予防医学、機能調整・回復の実践の場としての機能を期待します。

 保養、療養の観点から考えた場合、温泉地の環境は重要な意味を持ちます。例えば効能に優れた天然の温泉があっても、都会にあるのと、環境の良い山間地、もしくは海岸にあるのでは効果の発現が異なります。温泉療法の効果には環境も大きな意味を持ちますので、その温泉地においてはある程度環境を整備する必要があると考えます。保養型の温泉地であれば、温泉だけでなく、運動できる環境が必要ですし、十分な自然環境も必要ですし、当然周辺の騒音にも気をつけなくてなりません。温泉療法には転地療法としての作用もあり、療養環境は治療効果を上げるために非常に重要となるため、町全体で保養に専念できる環境整備を住民の理解も得て行なわなくてはならないと思います。

 温泉は歓楽型の利用も十分に意味があると思いますが、医療に関わる者の立場から考えると、温泉は健康保養的な利用をする事により、より本来の効果を生み出す事ができるのではないかと考えます。これからの高齢化社会を迎え、医療費の高騰は改善しなくてはならない最重要課題の一つです。私は在宅医療や外来を通じて多くの患者さんにお話を聞くことができましたが、患者さんにはいくつか特徴があることに気が付きました。一つは理解に関することで、自分の健康について重要な情報を全く理解してない状態、また逆に情報がありすぎて、どれが自分にとって適切な情報か理解できないまま、誤った健康法を実践している人。悪意のある情報に左右されている等、健康教育の不十分さがあるという事。もう一つは健康について正しく理解していても、それを実践する場がほとんど無いということ。もう一つは予防医学は個人として行なうものと考えられているのか、社会としてサポートされていないといないということです。一人一人の個別性を重視した健康教育をした上で、それを実践する場を提供し、それを社会としてサポートすることにより、結果未病の段階で対応できる患者さんが増え、結果治療しなくてはならない人を減らす事ができると思います。温泉療法を正しく用いるためには健康保養地的な構想が必要です。温泉だけでなく、健康教育を行なう事ができる場所、運動を実践できる施設や環境、精神的なリフレッシュを図ることが可能な自然環境、そして急変時に対応できる医療機関との連携は重要であると考えます。しかし何より重要な事は温泉や施設などの、いわゆるハードばかりでなく、実際の保養プログラムです。過去の調査で、温泉施設を保有している自治体と、保有していない自治体では医療費に差が生じないが、積極的に温泉を健康増進に利用している自治体と、そうでない自治体を比べた時には医療費に差が生じたと言われています。大事な事は自主的に、積極的に参加させるプログラムをどのように作るかということではないかと思います。

温泉療養の効果は短期間の利用ではなかなか効果が現れてきません。やはりある程度の連泊による利用が必要です。健康保養地においても健康教育等プログラムを行なうには4,5日は必要になります。しかも1回だけ行なえば良いと言うものではなく、何度か繰り返し利用する事が必要です。そのためには社会として支援する必要があると考えます。個人が有給を利用し、全額実費にて利用するということは、ある意味理想なのかもしれませんが、利用される方はごく僅かでしょう。ほとんどの方は利用する事などできません。広く予防医学の普及を図るのなら、ある程度の補助は必要なのではないかと考えます。

 どのようなプログラムであれ、最終的に重要な事は人がどのように関わるかという事になります。いくら箱物を整備し、立派な物を作ろうと、環境を整備しようとも、それを継続し、保持、向上させていくためには人との関わりが重要となります。住民の理解と協力が得られない計画は頓挫する事はあっても、成功する事は稀ではないかと思います。住民が自慢でき、住民自ら積極的に利用したいと思える物を作れるかが重要です。健康保養プログラムを作るのであれば、その恩恵は住民も受けるべきです。最終的にその温泉地を支えているのは利用者だけではなく、その温泉地の住民ですから、温泉地の活性化は、地域住民の活性化をどのように行なうかという事と同義ではないかと思います。また地域の特徴を十分に示し、個別化を計る事も必要です。その地域でなくては体験できない物を探し出すか、地域住民と共に作り出すか、いずれにしろ他の温泉地との差別化が必要かと思います。

 温泉は正しく利用すれば健康の保持、改善に有効に用いる事が可能であると考えます。しかも温泉地の特性を生かし、健康保養プログラムを実践する事により、その効果は更に向上する事が期待できます。日本は今高齢化社会を迎え、今までの生活とは考えも、行動も転換する時期に来ています。また現代は様々なストレスにより、体ばかりでなく、精神的にも変調を来たす人達が増えてきています。今こそ予防医学に目を向ける必要があると思います。温泉を利用した健康保養プログラムは、予防医学を実践できるプログラムの一つであると信じています。健康保養プログラムでは温泉療法を中心としながら、栄養療法、運動療法を行ないますが、その人の個別性を重視したプログラムが作成され、十分なケアの下で安全に行なわれます。利用期間中は健康教育も同時に行なわれます。その人にとって何が今重要か、今後何に気を付けていかなくてはならないかなど、疾患の知識と共に学んでいく事になります。また十分な自然環境を利用したリラクセーションも重要です。疲れた体と心を癒すためのプログラムも整備され、全人的な対応が行われる事となります。

 温泉の利用は歓楽的な利用も、保養的な利用も両方とも重要であると考えます。しかし保養地的利用を行なう場合には、ある程度公的な支援や負担が必要になるかと思います。しかしそれは将来大きなものとして還元される事になると思います。


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