Home 健康と温泉フォーラムとは 事業 組織
会員オンライン 情報ファイル お問い合わせ
研究会テーマ一覧

健康サービス研究会

現代型湯治健康法「温泉ドック」

小野 倫明
スパリゾートハワイアンズ 企画部 商品開発チーフ


はじめに

 「温泉地経営」には、温泉資源はもとより、地域の宝物である保養資源(基本資源、特異資源、健康資源)の発掘、またそれらを利・活用した温泉地ならではの保養プログラム(ソフト)と実践のできる人材が不可欠です。

 温泉そのものに特異性のある、つまり「温泉力」のある温泉地は別として、一般的な大多数の温泉地では、保養プログラム(ソフト)と人材が温泉地活性化の重要な鍵といえるでしょう。

 いわき湯本温泉郷では、平成13年11月に「温泉保養士」(バルネオセラピスト)という人材の養成をスタートしました。温泉保養士とは、温泉医学、予防医学に基づき、温泉の持つ保健的機能を引き出す知識、技術を習得し、温泉療法を活用した健康づくりを安全かつ適切にアドバイスできる人材のことです。

 第1期生が48名、2期生が56名、3期生が101名と期を増すごとに養成講習会の希望者が増え、現在205名の温泉保養士が誕生しています。
 温泉旅館の経営者、従業員をはじめ、観光事業従事者や福祉事業従事者、医師をはじめとする医療従事者、旅行業者など、様々な職場に従事されている方です。本年には第4期目の養成講座が開催されます。

 一方課題として、「温泉保養士」認定を受けた方の活躍の場の提供があります。温泉に対する健康ニーズの拡がりにより、温泉と健康に対する指導者が求められている昨今にあって、温泉保養士への期待は大きく膨らむばかりです。しかし、温泉保養士の資格認定はゴールではありません。あくまでも温泉と健康の指導者として、スタートラインに自信を持って立つためのものです。つまり、資格は自身のためでもあるわけですが、健康(保養)を目的として温泉地を訪れる方に適切なアドバイスをする責任を担っています。温泉保養士という資格を活かすのは、認定者自身の意識が最も大切になってくるでしょう。

 しかし、一方で温泉地として、その活躍の場を提供し、地域の大切なキーマンとして位置づける必要があります。
 今後の計画として、温泉保養士の認定者を対象に「実践コース」を設け、温泉と健康に対する実践的な取り組みができるカリキュラムでの講座を予定しています。

 人材と並んで重要になる「保養プログラム」(ソフト)についての取り組みを紹介します。「温泉」と「健康」の結びつきが提唱されてから久しいわけですが、具体的に温泉と健康がどのように関わるのが自然な形かを考えた時に、次のことがいえるでしょう。

 「健康」つまり、「ウェルネス」の概念は、1950年頃からであり、アメリカでは1970年頃に市民権を得ています。日本では、それから約10年後の1980年頃に言われ始めました。「ウェルネス」とは長寿、食事、運動、セルフケア、環境、安全など、健康に関わる全てを総称する言葉です。「ウェルネス」は「文化」「地域」「資源」と融合するもので、日本人が昔から培ってきた文化の1つが温泉地で行なわれてきた「湯治」であり、それには「温泉地」という地域全体が関わりを持ち、地域の温泉を含めた健康資源を活用してきたわけです。

 これこそが、「日本型ウェルネス」の基本となるべきものであると考えています。
そこで「現代型の湯治法」というものを研究してきました。
その結果、開発したのが「温泉ドック」という滞在型の現代型湯治健康法です。


1.温泉ドックとは・・・

昔ながらの湯治の手法を取り入れ、抗加齢医学(アンチ・エイジング・メディスン)に基づき、健康と若さを保つため温泉地に滞在(4泊5日)し、健康レベルをチェック、生体リズムに沿った(クロノセラピー)様々な温泉を利用したウェルネスプログラム(バルネオセラピー)を体験して頂く、滞在型の現代型湯治健康法です。

アンチエイジング
   


(1)アンチエイジングメディスン(抗加齢医学)

 抗加齢医学とは、健康で若さを保ちながら加齢することを可能にする医学のことで、体の内側から全身の働きを高め、心身の若さを実現していこうとするものです。
 体の働きが衰える原因は、大きく分けて2つあります。

1つは病気であり、もう1つは老化(加齢)です。
つまり、アンチエイジングとは、究極の予防医学といえるのです。
この考え方に基づいて「温泉ドック」では、健康レベルを年齢に置き換えるシステムを開発しました。

 血管年齢、足腰年齢、心肺年齢、姿勢年齢、脳年齢などです。一方で、老化の大きな原因の1つ「廃用性」ということにスポットを当て、普段あまり使っていない身体機能を呼び覚ますプログラムを取り入れ、健康年齢を若返らせる仕組みづくりをしています。
 4泊5日で変化の兆しが見えてくるものもありますが、やはり継続することで効果が顕著に表れてくるものであり、健康維持、増進の「学習の場」の位置付けが大切です。

※廃用性
 人間の身体機能は、不使用ならば退化、萎縮し、過度に使用すると障害を起こし、適度に使用すれば現状維持から向上します。つまり、使わなければ身体の諸器官は衰えるのです。例えば、筋肉は1日寝たきりで約3%落ち、1週間寝たきりだと約20%も落ちてしまいます。


(2)クロノセラピー(時間医学)

 時間医学は、人の心身の時間的変動を研究する新しい医学です。
人間には、サーカディアン・リズム(概日リズム)という心身の基本的なリズムがあって、その上に様々な周期を持つリズムが重なって、その人固有のリズムができています。サーカディアン・リズムは、人間の場合、300種類以上あることが証明されています。

 例えば、血圧は一日中ずっと同じではなく、午前3時頃に最低になり、午前11時頃ピークに達し、午後3時頃にへこみができ、そして夕方6時から7時に第2のピークがきます。また、痛覚は夜11時頃が最も敏感で、午後3時頃には低下します。つまり、鎮痛剤は夜間多めに、午後は少なめに飲むのがベストといえるのです。
 この生体リズムは、いつもリズムを整えておくことが大切であり、病気の予防や治療に有効になります。生体リズムの歪みは、病気を引き起こし、逆に病気をすると歪みも起きてきます。

 「温泉ドック」では、様々な生体リズムに沿った滞在プログラムを体験し、「理想的な日常」を発見することができるのです。


(3)バルネオセラピー(温泉保養学)

 「バルネオ」の語源は、温泉、自然環境、水治療法、運動などがありますが、基本的には、温泉地に存在する資源であると考えます。
 バルネオセラピー(温泉保養)は、温泉の物理的作用、化学薬理作用、そして転地作用により、心身を恒常性(ホメオスターシス)へ環帰させることが一般的考え方です。

 「温泉ドック」では、温泉療法、運動療法、食事療法、環境療法を組み合わせ、相乗効果を引き出すプログラムを考案しました。
 例えば、温泉を利用した健康法は、「温泉三浴」という考え方を基に「源泉浴」、「温浴」、「運動浴」という各々の特質を活かしたプログラムで構成されています。「源泉浴」は、源泉100%の入浴法で、血液サラサラコースや痩身コースなど全6コースで目的に合わせ、温泉力を引き出します。「温浴」は、水着で入る温泉でバブやジャグジーなど多機能な浴槽が50種類もあり、美肌コースやストレス解消コースなど全6コースを巡り、温泉と浴槽機能の相乗効果を引き出します。「運動浴」は、温泉水を使い、水深が自在に変えられるエレベータープールでの楽しく、体にやさしい水中運動を行います。腰痛、肩凝り、ダイエットなど目的別のプログラムやインストラクターの指導なしでできるセルフプログラムなど、多彩なプログラムがあります。

 「環境療法」では、温泉地ならではの保養資源を活用したプログラムを体験します。その1つが、全国に20ヵ所余りしかないと言われる「鳴き砂」を歩くサンドウォーキングです。「鳴き砂」は、環境汚染に敏感に反応するため、環境のセンサー・バロメーターと言われ、砂が鳴かなくなることは自然環境が汚染されていることを意味しています。

 鳴き砂は砂の中にある硬い石英の粒が擦れあい、砂の隙間の空気の作用によって美しい音色を出します。約1億5千年前から自然がつくった貴重な自然文化遺産なのです。このウォーキングは、海の環境を活かし、普段の自身の歩き方をチェックし、正しいウォーキング法を学習するプログラムです。海風は不純物が少なく、清潔で海塩粒子を豊富に含んでいます。海塩粒子は、海水に含まれている塩分が空気中に舞い上がりできる物質で、食塩のほかミネラル分を多く含んでいます。海岸の大気浴は、新陳代謝を高めて、酸素消費量を増加させ、血液の循環を活発化させ、神経の安定などの効果が期待できます。
 このような環境の特質とウォーキング法という組み合わせが環境療法の特徴になります。


2.温泉ドックプログラム
   
 ※クリックすると拡大表示します

(1)健康レベル測定
 抗加齢医学に基づいた「老化度」をチェックします。
 血管年齢、足腰年齢、心肺年齢、姿勢年齢、脳年齢などを測定し、さらに老化の大きな原因の1つともいわれる肥満度(体組成による体型を分類)も測定します。









(2)カウンセリング
 バルネオセラピスト(温泉保養士)が「健康レベル測定」の解析結果を分かりやすく説明し、滞在中のプランについて適切なアドバイスを行います。


    

(3)源泉入浴法
 源泉100%の入浴法、各コース(6コース設定)から自分の体調に合わせたコース選択

    

(4)温浴法(水着着用)
 バルネオセラピスト(温泉保養士)が各浴槽機能を活かした入浴法をアドバイスしながら、多種多様な浴槽を巡っていきます。

    

(5)運動法
 温泉水を使い、水深が自在に変えられるエレベータープールや日光浴、大気浴を感じられるオープンスタジオでの楽しく、体にやさしいエクササイズを行います。

    

(6)健康食
 ヘルシーメニューは、スローフードに代表される地場産の栄養成分がたくさん含まれている旬の食材を使い、血液をサラサラにする素材、ストレスに対しての耐性力、そしてダイエットに効果的な素材の要素を考慮して調理されたものです。
 (1日1,600kcalを基準に設定)

    

(7)ウェルネスセミナー
 目からウロコの健康と若さを保つ知識と方法を伝授します。

    

(8)自然散策 (いわきならではの保養資源を活かしたエンターティメント)
 いわきならではの保養資源を活かした自然散策(国宝と季節の花めぐり、鳴き砂を歩くサンドウォーキングなど) 季節ごとに最適なフィールドを提案していきます。

    


血液年齢の推移

開始前 開始後 若返り
10代 21.5 12.0 -9.5
20代 30.0 26.8 -3.2
30代 35.8 29.8 -6.0
40代 52.0 43.4 -8.6
50代 59.4 51.0 -8.4
60代 63.7 54.3 -9.4
70代 75.0 64.3 -10.7
80代 94.0 74.0 -20.0
平均 -7.84

    


3.健康づくりの拠点としての温泉地づくり

 「温泉ドック」は、いわき湯本温泉の豊富な温泉資源とそれを利用するノウハウ、そして専門スタッフ(温泉保養士=バルネオセラピスト)によって実現した日常と非日常の中間に位置する滞在プログラムです。
 基本となる「健康」に対する考え方として、「心身の若さを保ち、人間としての楽しみを知る」ということがあります。

4泊5日の滞在中には、
 ・動的充足感 (各運動を含めたプログラム)
 ・知的充足感 (健康法を知るプログラム)
 ・人間関係充足感 (肌のふれあいプログラム)

の要素が組み込まれています。つまり、4泊5日で「健康になる」とか「若返る」ということではなく、健康であることの価値に気付き、さらにはこれから健康であり続けるための「養生法」を学ぶ場が温泉ドックなのです。

 「湯治」という日本人が築いてきた文化、そして健康法には、現代人にとって忘れかけていた人間としての本当の「価値」がまだまだ隠されていると考えています。
 例えば、湯治の中で行われた自炊では地元で取れた旬の食材をふんだんに使った料理で、地域ならではの調理法(食術)がありました。いくら食べることにたけていても調理ができなければ人間は生き延びられないのです。料理を作る、食材が食べられるかどうかを見分ける、そして食材を上手に保存するといった技術が必要です。
 一方では、温泉地にはたくさんの保養資源(地域の宝物)が眠っています。地元の人ほどそれに気がつきにくいものです。しかし、この保養資源を活かすことで、他に真似のできない温泉保養プログラムが実現するのです。
 
 温泉保養地づくりを目指す温泉地はたくさんあります。今後、各温泉地の保養資源を活かした独自性のある保養プログラムが発掘、開発されることでしょう。長寿大国日本にあって、健康(ウェルネス)は最も大切な資産(アセット)であり、「健康づくりの拠点」となるのが、「各温泉地」であると確信をしています。


(連絡先)
スパリゾートハワイアンズ  TEL 0246-43-3191
 URL: http://www.hawaiians.co.jp/
 e-mail :  m.ono@violin.ocn.ne.jp



研究会テーマ一覧
Copyright(c)2004 NPO法人 健康と温泉フォーラム All rights reserved.