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温泉と健康サービス

温泉保養地とは

白倉 卓夫
群馬大学名誉教授


I はじめに
 これからの温泉地の望ましい方向については、これまでの遊興・歓楽に重きを置いたわが国独特の温泉地から健全な休養,保養が可能な温泉保養地への転換が中心課題として議論が重ねられてきた。今なお脱却しきれないでいるバブル経済崩壊後の温泉地経営の深刻な状況は温泉地はいかにあるべきか、といった課題を改めて温泉関係者に問いかけている命題でもあると言える。温泉利用には本来の目的である健康増進以外にも、娯楽、観光、人との交流、親善など幅広いものが考えられるが、その中でも温泉保養をとうしての健康づくりは、わが国にとって現在そして将来にわたって最も重要な課題であることは間違いない。
 本講座「温泉保養地とは」では、健康増進、疾病予防のための温泉保養地についての医学的理解を深めるとともにそれを可能にするための温泉保養地の条件を医学的見地から述べる。

II わが国における温泉医学のこれまでの変遷
 温泉保養地医学に入る前にこれまでのわが国の温泉医学の歴史を振り返っておく必要がある。温泉は古くは奈良時代に既に病者に治療として用いられて、当時から温泉の療養効果が知られていたと伝えられている。江戸時代には湯治といわれる形の長期滞在型の温泉利用によって、心身の疲れを癒し、休養と体力づくりが行われ、とくに農閑期を利用しての農村の習慣として盛んに行われたとされている。いわばわが国の温泉保養の原点がここにあったともいえよう。明治に入ってからは近代西洋医学の導入と急速な西洋医療の普及とともに科学的に裏付けされた温泉医学が確立され始めて、本格的に温泉医学の科学的研究が行われるようになった。昭和に入ってからは温泉医学の学術集団である現在の日本温泉気候物理医学会の前身である日本温泉気候学会が結成され、さらに温泉医学研究のために6ヶ所の温泉地に国立大学附属温泉研究施設も設立された。また創傷治癒、慢性疾患の転地効果を期待した療養施設が各地の温泉地に設置され、温泉が治療手段として積極的に利用されるようになった。第二次大戦後の抗生物質の出現を契機として、それまで多くの人々を苦しめ、死に追いやった肺炎、結核、梅毒など、多くの細菌性感染症が征服され、近代西洋医学の急速な発展、普及はそれまでの温泉療法に対する人々のニーズを大きく変えた。やがて到来した社会情勢の変化、とりわけバブル経済の台頭はそれまでの湯治形態の温泉地から団体旅行を中心とする遊興歓楽型の温泉地へと急速な変貌をもたらした。
 大勢の温泉旅行者を受け入れるための宿泊施設の増設は温泉街に高層ビルを林立させ、湧出量をはるかに超える温泉の需要は温泉の循環濾過方式、温泉の集中管理方式を取り入れるなど、今日の温泉地像を出現させた。しかしバブル経済の崩壊後の今、折からの高齢社会、健康志向の高まりを背景に、本来温泉がもつ効用に基づいた適切な利用を改めて温泉地に求める情勢が人々の間に醸し出されてきた。

III 温泉地のもつ医学的作用
 温泉保養地医学を理解するうえで先ず、温泉とそれを囲む温泉地が体にいかなる作用を及ぼすか、温泉地では体はどんな影響を受け、その結果どんな変化が引き起こされるのか、といった温泉の基本的な医学的作用について先ず知っておく必要がある。大きく五つの作用に分けて考えられるが、このうち前四者は温泉浴そのものの作用であり、最後の温泉の非特異的変調作用は温泉地に滞在して初めて得られる保養地効果をもたらす作用といえる。
1.保温作用
 温泉の最も特徴ある作用は程度の差はあれ、高い保温効果(出浴後も比較的長時間つづく温熱の持続効果)をもたらす作用である。これは入浴中に温泉から受ける温熱に、更に温泉に溶存する化学物質の皮膚血管の直接的な拡張作用によってもたらされる血流増加によって引き起こされる総合的な作用である。その結果、動脈血は皮膚組織をはじめ全身の隅々にまで多量の酸素と栄養分を送り込むとともに体内に蓄積した炭酸ガスや代謝産物、疲労物質をより速やかに運び去り、その結果全身の組織の新陳代謝は高められ、リフレッシュされる。温泉は水道水に比較してこの温熱効果が著しく高く、しかも長く持続する特徴をもっている点が温泉の温泉たる所以とも言える。
 この保温作用は四肢の血行を促進するので動脈硬化性あるいは糖尿病性の血行障害にはよい適応となる。この作用はまた血管緊張をほぐすので連続浴は高血圧症に対して持続的な血圧是正をもたらせてくれる。温泉の保温効果は関節組織の血行促進、代謝改善、疼痛軽減をもたらし、筋肉のしこりを和らげて関節の動きを容易にしてくれる。そのため温泉浴は変形性脊椎症、慢性関節炎など疼痛性慢性疾患には温熱療法として有用な治療手段となる。
2.浮力作用
 温泉水中にある体の部分は排除された容積の温泉重量分だけ軽くなるので、成人では首から下を沈めると全体重の1/10になる。そのために温泉中では水中運動が容易になる。手足の反復運動は運動障害(脳血管障害後遺症、慢性関節リウマチなどによる)のある人の機能回復には大変有用となる。温泉病院では今これが盛んに行われている。
 浮力によって温泉水中に没した体の部分では重量が著しく減って無重力に近い状態になる。この無重力に近い状態は血液が本来持っている線維素溶解能(血栓の溶解能)を強めることが分ってきて、血栓性疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)の治療にも効果があるのでは、と期待されている。
3.静水圧・粘性
 入浴中には水の重さだけ水圧が体にかかり、深いほどその程度が増加する。そのため空気が入っている肺では大きな外圧となり心臓にも負荷がかかってくる。心肺負荷が大きい首まで沈める全身浴は心肺機能の低下した高齢者や心肺疾患のある人では避ける必要があるが、逆にこの負荷に積極的に抵抗力をつけていくような水泳、運動浴は喘息・慢性閉塞性呼吸器疾患治療にプラスすることが分かっている。温泉プールにはこんな療養効果も期待される。
 浴水に共通してみられる粘性は温泉水中で迅速な手足の運動をする際、これに逆らう形で働く。温泉水中の水泳で経験することだが、手足の反復水中運動は筋力アップにつながる。また、このような水中運動ではカロリー消費量は空気中のそれに比して倍増するので、肥満、糖尿病などの代謝性疾患の温泉療法メニューに盛んに取り入れられる。
4.化学・薬理作用
 温泉水自体の特徴ある医学的作用は温泉水中に溶存している化学物質によって引き起こされる。療養泉として利用される泉質中、科学的に明らかに明示しうる作用は既述のように保温作用であり、さらには保湿作用がある。いずれの作用も温泉浴中に溶存物質が浴水から経皮的に体内に浸入し、主として皮膚の組織、血管に働いて泉質特有の生体反応を引き起こしてくる。現在科学的に明らかにされている泉質別の特徴点や作用を一括表示した(表1)。溶存物質濃度が高いほど皮膚に浸透する率も多くなるが、ドイツなどの温泉に比較して含有成分量が桁違いに少ないわが国の温泉で、そのうえ温泉の加水、ろ過の循環システムの普及、さらには塩素消毒も加わる可能もある現状を考えると、泉質別効果を論ずること自体余り意義はない。
5.非特異的変調作用
 温泉で最も注目され、期待されるものに連続温泉浴と温泉地滞在によってもたらされる体内リズムの修復効果がある。これは保養効果でもある。温泉浴という一種のストレッサーの連続刺激に加えて、温泉地における長期滞在によってもたらされる体内リズムの正常化である。
 先祖から受け継いでいる「昼は活動的な、夜は静的な生命活動パターン」といった正常の体内リズムを発現する遺伝情報をもつ我々現代人は現実にはそのパターンにそぐわない日常生活を強いられる。このような生活環境では多くのストレッサーを介して体内リズムのパターンが歪められ、ひいては体の抵抗力、免疫能の低下を招き、健康を損ねるリスクが高められる。幸い我々は本来のリズムに順じた生活を温泉地で3〜4週間過ごすことによってこの体内リズムの歪みを修復し、正常に復帰させることが可能なことが医学的に証明されている。温泉地保養の効果はここにあるといえる。

IV 温泉利用の形態
 温泉の本来の目的には観光・レジャー、レクリエーション、保健・医療などに大別して利用法を考えることができるが、このうち保健・医療面での利用は休養、保養、療養・リハビリテーションに分けられる(図1)。
1.休養:ストレッサーの多い日常生活のなかで蓄積する疲労を取り去る目的で1〜3日温泉地に滞在する形である。現在のわが国の温泉利用形態は一泊二日の短期滞在がその殆どを占めているが、この短期滞在型、健康志向型の温泉利用でも疲労回復、休養効果に有効であり、その場合、一泊より二泊でその効果が勝ることが明らかにされている。日数の多い休養のほうがより望ましいということとなる。
2.保養:仕事のための体調を整え、体力を蓄えて健康体を取り戻す目的で、1〜3週間と比較的長い期間を必要とする滞在形態である。保養効果を享受するために必要な3〜4週間の長期滞在は、現在のわが国の社会状況下では困難と思われるが、当面5〜6日の温泉地滞在が目標となる。この温泉保養では休養、栄養、運動を軸にして、自然、社会、文化などの温泉地の健康資源にも接しながら体調の修復、正常化が図られる。現在国民病とさえいわれ、その克服が21世紀健康日本の国家的課題となっている生活習慣病に対しても、これらの病態の進展を抑え、それを改善することに温泉地保養は期待される。全国に散在するわが国の温泉の活用は、効果的な保健・福祉事業の展開によってさらに老人医療費の抑制にもつながっていく期待もまた大きくクローズアップされてくる。
3.療養:病気の治療のため温泉を利用する形態であり、リハビリテーションは病気や外傷、手術などで低下したり失ったりした運動機能を回復、改善させ、あるいは代償機能を向上させるための温泉利用型トレーニングである。これまでの研究から、慢性関節リウマチ(RA)、気管支喘息、糖尿病、高血圧症、動脈硬化性血行障害、アトピー性皮膚炎、乾癬、心身症、ストレス性疾患など広範囲にわたる慢性疾患に対し症状改善を主とする治療効果のあることが明らかにされつつある。この点に基づいて温泉を医療手段として積極的に取り入れている温泉治療施設は少なくない。
最近発表されたリウマチ性疾患、循環器疾患、代謝性疾患などを対象とした短期温泉療養(3−7日間)効果に関する全国的な調査成績 でも、QOLの改善が明らかに認められ、しかもその効果は1ヶ月程度は持続することが科学的に明らかにされている。こういった温泉療法の効果は患者の苦痛を和らげて日常生活の質の向上に繋がっていくということである。またこれらの病気改善効果はこれら適応疾患の症状や病態改善に薬物療法の補助療法として有用であり、薬物治療の一定期間を相補、代替する医療(相補・代替医療、CAM)として薬物療法の弊害を減らし、ひいてはこのことが医療費節減をももたらすことが期待される 。現在わが国で主流となっている西洋医学の医療現場に、この温泉療法をはじめとした東洋医学その他の民間伝承療法を取り入れるといった統合医療は患者の健康を守り、疾病を予防し、効果的で副作用の少ない理想的な治療形態として、これからの究極の医療だとさえ強調する向きもある。

V 温泉保養地で重視されるもの
 適切な保養効果を期待するうえで重要な条件は、休養、運動そして栄養に配慮した滞在が出来るということに尽きる。これらの要素の適切な組合せによる複合作用によって始めて保養・療養効果がもたらされる。
1.保養プログラムの作成と実施
 保養は日常生活環境から離れた保養地に転地し、適切な休養、栄養、運動をとうして日内リズムの修復、心身機能の回復、ひいては疾病予防を図る生活習慣を体得することを目的としている。温泉保養者には中高年者を中心に半健康人がその大多数を占めると考えるべきであり、これら保養者の種々の健康度に相応する「もてなし」がなくてはならない。温泉保養地づくり(環境整備や宿泊設備、管理運営など)といったハード面も重要であるが、きめこまかな各種滞在プログラム作成とその実行(温泉利用、運動指導、栄養指導)というソフト面の充実は温泉保養地の成否を左右するキーポイントを握っているといえる。そのための温泉保養士、健康運動指導士、管理栄養士が温泉保養を軸として有機的な連携をもって指導する体制づくりが強く求められる。また温泉利用にあたっては医学的なアドバイスを受けることは必要であり、また後述するように、温泉地で決して少なくない事故の予防、事故の対処に全国温泉地に在住する温泉療法医との関係維持、ネットワークづくりが極めて重要なこととなる。
(1)運動
 既述のような温泉のもつ特性(浮力、粘性、静水圧、温熱、化学作用など)を生かした水中運動は温泉地でこそ可能な特徴といえる。温熱と浮力は全身の血行を促し、疼痛と筋肉のしこりを和らげて四肢の運動を容易にしてくれることは既に述べた。これは脳血管障害後遺症や関節リウマチ、神経痛など全ての人に適用する。静水圧に逆らう水中運動は高齢者や慢性閉塞性肺疾患(喘息、肺気腫など)の換気機能低下を改善してくれる。運動機能、心肺機能の低下した高齢者や障害のある人にとって、自然の温もりのある温泉水に浸りながら、一年をとうして安全に行うことができるのが温泉地の特徴でもある。このような適切で安全な水中運動を指導できる温泉利用指導者の配置が重要である。ほぼ一日を周期とする日内リズムからみて、体内活動が活発な日中にかけて体を積極的に動かすことは健康に適う大原則である。運動の形態には町中の散歩やショッピング、知人との会話から始まって温泉街のコースを辿ったり、郊外の山野の散策などがある。樹々のざわめき、鳥の囀り、せせらぎの音。これらにはリラクセーションをもたらす高周波音に満ちている。町中の、あるいは山野の滝は周囲の空気中に豊富なマイナスイオンを放出してくれる。空気マイナスイオンには交感神経緊張を緩めて血圧を低下させ、心身のリラクセーションを誘ってくれる働きがある。このように豊かな自然からの恵みを享受できるのは豊かな自然に囲まれた温泉地があるからこそ可能なことといえる。
運動は温泉保養にとって欠かすことのできない重要な要素である。生活習慣病対策は今やわが国では最も大きな健康課題であり、糖尿病一つをとっても2002年の統計では、その予備軍を含めると1600万人を超えたといわれており、今後温泉保養を期待して温泉地に出掛ける人達は益々大きな割合を占めることは間違いない。栄養と並んで運動が重要な保養メニュウとなるこれらの人達に、安心して温泉地に滞在して保養に専念してもらうためには、適切なプログラムに基づいた保養システムの構築は欠かせない。このための健康運動指導士のアドバイス、指導は重要である。
(2)休養
 温泉はその含有成分によって血管を弛緩させ全身組織の隅々に新鮮な動脈血を送り込む働きが強いことは既に述べました。そのため浴後、血圧低下状態が1〜2時間は持続する傾向がとくに強いのが温泉である。このためこの間は静かに横臥して休養をとることが温泉効果を充分に享受するためには大切となる。
人には睡眠覚醒リズムがあって、睡眠リズムは夜10時頃以外にも昼2〜3時頃にも見られる。この時間帯前に温泉浴(ぬる湯)をすると質の良い深い睡眠(午睡)を誘い出すことが可能と考えられる。就寝前のゆっくり寛いだぬる湯入浴(39〜40度)は副交感神経を優位にして心臓を落ち着かせて血圧を下げ、心身をリラックスさせてくれる。このぬる湯入浴は深部体温を上げ、誰にもみられる夜間の体温下降を急激なものにする。実はこの体温下降は快い深い眠り(ノンレム睡眠)に導く。このように温泉浴の時間帯に配慮した使い分けによって効果的な休養、睡眠をとることが可能となる。保養プログラムで留意したい点といえる。
(3)栄養
 既に触れたように運動と並んで栄養は保養効果をもたらすうえで重要な要素である。栄養に強く影響される病気をもつた保養者は極めて多いと推定されるが、そのために例えば塩分は控えめ(高血圧症、腎疾患、心不全、浮腫傾向のある人などには)、炭水化物は少なめ(糖尿病、肥満などには)、魚類を多め、獣肉・卵は少なめ(高脂血症には)、アルコール類は控えめ(痛風・高尿酸血症には)など、保養者に配慮した各種献立が重要となる。当然そのための管理栄養士の配置やアドバイスは温泉保養、療養に欠かすことはできない。
 以上のような温泉保養にあたり、各保養者の身体状況に留意した多彩な食事メニューに応じられる供給システムをどう確保するか、各温泉地の地域事情に準じた種々の検討、対応が必要となる。食事、栄養の配慮、対応は温泉保養地の質を左右する重要な要素となるといっても過言ではない。
(4)その他の考慮すべき要素
1)気候
 温泉保養地においてその土地の気候から受ける影響は重要となる。一般に標高1000m以上の山岳では気温は低く、紫外線は多く、低酸素であり、これは刺激性気候で保養に適さない。一方、温暖な海辺では気温の変化は小さく、海風はオゾンや塩分に富み、湿気も多く、細塵が少ないので、呼吸器疾患には適している。空気中には鎮静効果をもたらすマイナスイオンが多い。この保護性気候は高齢者を始め、病後の健康回復、心身症、ストレス性疾患などに適応がある。海を臨む温泉地はわが国には多い。気候に配慮した保養地については改めて他講座で紹介される予定であるが、海洋療法を含めてわが国でも本格的な温泉保養地が設立されることが期待される。この項の詳細については「温泉保養地医学、矢永正氏」を参照されたい。
2)森林
 森林は湿度を高く保ち、強い風を防いでくれる。粉塵は濾過され騒音は防止されて、空気清浄化と静寂さがもたらされる。樹木からは抗菌、防腐作用のある芳香性物質(フィトンチッド)が発散し、鎮静作用のあるマイナス空気イオンも多いために森林内歩行では心身は浄化され、やすらぎ感を起こさせてくれる。また高度差のある坂道の歩行は地形療法としてとくに心肺機能トレーニングに適している。自然に恵まれたわが国でも今後大いにこのような点に配慮した利用を考えたいものである。このために金をかける豪華な施設は全く必要ない。豊かな自然を大切に保護し育て、そして利用させて戴く精神が大事なのである。
3)歴史・文化資源の活用
 温泉保養施設を中心とした保養地には健康資源となる多種のものがある。滞在中の保養客にとって娯楽、遊び、あるいはその土地の歴史、文化などの学習なども大切な滞在プログラムの一つであり、洋の東西を問わず温泉地保養のバックボーンをなしている。歴史・文化資源には歴史的建造物、伝統芸能、地域行事、郷土資料館、伝統工芸、地域特産などその土地特有の資源が数多くあるが、これら資源活用には土地のそれぞれのボランチアの積極的な参加、協力が必要となる。保養地における街づくりについてはあらためて別講座で詳しく解説される。
2.温泉病院、医療機関との連携
(1)温泉保養のための医療スタッフの活躍
 休養、栄養、運動を柱とする保養には、温泉地の環境整備といったハード面おみでなく、温泉保養に関係する人達(医師、看護師、保健師、管理栄養士、健康運動指導士、温泉利用指導者、温泉保養士など)との連携などソフト面での協力をえて温泉保養推進グループが組織されることが望ましい。温泉を組み入れて保養効果をいかに高めるか、保養プログラム作成とプログラム実施に関わる勉強会、研究会のなかで議論をすすめることが望ましい。このような保養のためのネットワークには、上記以外にも役場関連職員、観光業者、旅館業者も加わることが望ましい。この組織には保養者のための温泉療法コーナーの町内開設(ホテル内も含む)と定期的な活動、セミナー、講演など、院外での積極的な活動も期待される。とりわけ長期滞在者の多数を占めると思われる中高年者層には高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症など、生活習慣病をもった人達にとって滞在中の食事の質や量はきわめて重要な「治療要素」となる。食事中の塩分量、摂取カロリー、などなど保養のやめの多様なメニュー設定に医師、管理栄養士の役割は重要となる。
(2)救急医療施設の設置
 温泉地にとって最も重要なことは地域住民はもとより温泉保養客に対して急性発症に迅速、適切に対応できる医療機関が整備されていることである。わが国の温泉地における滞在客の事故のうち、とくに高齢者を中心に心脳血管性疾患発症が決して少なくないが、このような傾向は一部の温泉地に限られたもの現象ではなく、多数の温泉地に共通する問題と思われる。高齢社会の到来で温泉来湯者に占める高齢者層は益々増加することが予想される。健康に最も関心の深い、そして心脳血管性疾患発症の高い高齢者にとって、安心して保養に専念できる温泉地ほど魅力的なものはない。温泉についてはとかく身体へのプラス効果のみが喧伝され、温泉の副作用ともいえる温泉地滞在中の事故といったマイナス面のことがほとんど指摘されてこなかったことは意外のほかはない。これらの急性心脳疾患に対しては迅速、適切な対応処置が必要であり、ケースによっては専門病院への搬送もありうる。急性疾患に対応できる救急医療部門の存在は温泉地では最も重要な点である。
(3)温泉療法医、総合医(家庭医)の在住
 わが国には日本温泉気候物理医学会による温泉療法医制度が発足していて、通常の医学知識以外にも温泉療法に関わる一定水準以上の温泉医学の知識、情報を有している温泉療法医は既に800名を越えている。これら療法医の温泉保養地に在住することはきわめて重要であるが、実際に温泉地で活躍できる場が全く確保されていないのが実情である。因みに温泉保養の先進国ドイツには全国で約300の保養地があるが、そこには温泉医や専門医(総合医も含む)が必ず在住していて、保養客の滞在するホテル内にある療養施設とはつねに連絡をとれる体制にあるのとは対照的である。地域医療に「よろず健康・診療相談」のできる診療能力をもった総合医(プライマリーケアー医)の存在は大きい。一般医療に加えて保健や福祉関係者とも円滑に連携できる幅広い能力をもった総合医の在住は温泉療法医と並んで温泉保養地では重要な役割を演ずる。既に日本プライマリーケアー学会による認定医制度も発足しており、今後プライマリーケアー医の保養地在住が大いに期待される。

VI おわりに
 温泉保養地の基礎知識と温泉保養地の条件について、医学的見地から解説した。わが国固有の温泉保養地と保養地医学の構築、確立には温泉保養地づくりといったハード面とともに、温泉保養の基本となる温泉保養地医学の理解と適切な温泉保養の履行といったソフト面の整備、充実がまた重要となることを強調した。


表1 温泉にはどんな種類があるか(泉質)
  



図1 温泉(地)の期待される利用形態




参考文献

1 延永正ほか:QOLからみた短期温泉療養の効果、日温気物医誌65:161、2002
2 大塚吉則:温泉療法と西洋医学との比較および健康保険適応上の問題点、日本統合医療学会誌1:100、2001




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