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省エネ・省資源(浴場)研究会

温泉施設における設備のあり方について

竹内 良一
株式会社荏原製作所 第二技術計画室長


このところ温泉表示の問題から端を発して、温泉本来の姿は「かけ流し」ということが言われているが、現在の温泉施設の利用形態から見ると、全ての温泉施設に適用できるわけではない。
適用可能な条件は、源泉圧力の低下を招かない程度の湯量で浴槽の湯が入れ替わり、入浴客数とのバランスで清浄度が保持できる場合に限られる。この様な条件に合致する施設は限られており、近年盛んな日帰り入浴をメインにした施設では殆どの場合「かけ流し」は困難で、循環型の温泉利用とせざるを得ない。
ここでは、循環型利用での設備について衛生面とエネルギー面から検討を行う。

1.衛生面におけるリスク管理
循環型での温泉利用は使用水量(補給水)が少なくなるため、源泉の泉質保持、及び枯渇防止の面では大きな効果があるが、汚濁物質の除去、殺菌等がうまく機能しないと施設管理者は衛生面での重大なリスクを背負うことになる。
リスク回避の方法は
1) 施設規模に対して十分な余裕を持った設備を有すること
2) 設備の維持管理、清掃が適切に行われていること
の二点であるといっても過言ではない。

1.1設備の概要
温泉施設での水関連設備設計に当っては、温泉泉質による腐食やスケール付着問題を解決するため、機器や配管の材質、型式選定が重要な要素となるが、ここでは衛生問題に焦点を絞るため、浴槽の純管路か、滅菌関係の設備について検討を行うものとする。
温泉を利用する公衆浴場は公衆浴場法が適用される。旅館やホテル等の浴場は旅館業法が適用されるため、公衆浴場法の適用は受けないが、リスク回避の為には同様な考え方をしたほうがよいであろう。

1.1.1浴場の構造・設備基準1)
公衆浴場の構造設備、衛生管理等の基準は、公衆浴場における「衛生等管理要綱」(平成3年衛指第160号)に基づき、都道府県が条例で定めている。
このうち浴室関係の主なものは以下の通りである。

1) 洗い場の面積は男女別々に次式で算出する。
   S1=C1×20×1.1×1.5÷60
     S1:洗い場面積(m2)
     C1:最大利用人数(人/hr)〔平均利用人数の2倍〕

2) 給水・給湯(組)栓は男女別々に次式で算出する。
   N1=C1×20÷60
     N1:給水・給湯栓の組数(組)

3) 浴槽面積は男女別々に次式で算出する。
   S2=C1×10×0.7×1.2÷60
     S2:浴槽面積(m2)

4) 浴槽における原水、原湯(新湯)の注入口は、浴槽水が逆流しない構造とする。

5) 循環ろ過装置により浴槽水を循環する構造のものは、循環した浴槽水の誤飲を防止するための処置を講ずる。

6) 循環ろ過装置は、1時間当り浴槽の容量以上を処理できるものとする。(浴槽水は1時間当り1ターン以上の交換を見込む)

また、旅館業法に基づく大浴室の構造・設備基準は、「旅館業による衛生等管理要領」(昭和59年衛指第24号)によって規定されている。このうち浴室関係の主なものは以下の通りである。

1) 洗い場の面積は次式で算出する。
   S3=C2×0.5×0.5×1.1×γ
     S3:洗い場面積(m2)
     C2:収容定員(人)
      〔入浴設備がない客室定員+入浴設備がある客室定員の50%〕
     γ:宿泊者の男女比

2) 給水・給湯(組)栓は次式で算出する。
   N2= C2×0.5×0.5×γ
     N2:給水・給湯栓の組数(組)

3) 浴槽面積は次式で算出する。
   S4= C2×0.5×0.5×0.5×0γ
     S4:浴槽面積(m2)

4) 循環ろ過装置により浴槽水を循環させる構造の浴槽において、湯の注入口は当該浴槽の水面より下の適当な位置(15cm以下が望ましい)に設けるものとする。ただし、浴槽水面より上部に注入口を設けるもので、入浴者に対して「当該湯は飲用不適である」旨の表示をその周囲の良く見える場所に掲示する場合はこの限りでない。

更に、レジオネラ属菌による感染症対策のため、平成15年7月に「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」が告示された。2)
このうち循環型温泉関係の主なものは以下の通りである。

1) 貯湯槽の温度は60℃以上とするか、温泉水の消毒を行う。消毒の方法は、浴槽内の残留塩素濃度を常に0.2〜0.4mL/Lに保持する。但し、温泉の含有成分やpHにより塩素添加が適さない場合は、同等の処置を行う。

2) 設備の洗浄、消毒等については次のとおり。

   集毛器:毎日清掃
   ろ過器:週1回逆洗浄(循環配管も消毒)
   貯湯槽:定期的に清掃消毒
   浴槽水:毎日換水(最低でも週1回)

3) 気泡発生装置、ジェット噴射装置等のエアロゾルを発生させる装置の空気に土ぼこりが入らないような構造とすると共に、毎日換水していない浴槽水は使用しない。

4) 打たせ湯及びシャワーには、新湯を使用する。

1.1.2設備の概要
循環型温泉設備が必要とする機能の基本は、汚濁物質の除去、浴槽内の滅菌、浴槽温度の保持にある。
それぞれの機能を満足させるため、一般的には以下の機器が使用されている。

   汚濁物質の除去:集毛器、ろ過器 等
   浴槽内の滅菌:塩素注入、オゾン注入、UVランプ 等
   浴槽温度の保持:熱交換器、直接加熱 等

一般的な循環型温泉の水フローを図1に示す。
浴槽温度の保持については、エネルギー利用の項で触れるため、ここでは汚濁物質除去と滅菌について述べる。


 図1 循環型温泉の概略水フロー


汚濁物質除去方法としては、物理化学的処理が中心となる。単位操作としてはスクリーン、ストレーナ、沈殿・浮上、ろ過、活性炭吸着等があり、この順番で除去できる粒子の大きさが小さくなる。
大まかに除去可能な粒子径を以下に示す。但し、除去可能な粒子系は各単位操作に使用する素材によって大きく変化する。一般的には表示サイズ以上の粒子は除去可能だが、目詰まり等により実用上は適さない。従って、多くの粒子形を持つ場合は、複数の単位操作を組み合わせて使用することが行われる。

   スクリーン:10mm以上
   ストレーナ:0.1〜5mm程度
   沈殿・浮上:0.1mm以上
   ろ過:0.01〜1mm程度
   活性炭吸着:0.001mm以下

循環型温泉では、比較的大型の汚濁物質(人毛、等)を集毛器で、小型のもの(人の外皮組織片、埃等)をろ過器で捕捉している。露天風呂の浴槽水を循環する場合には、木の葉や昆虫類が多く、集毛器がすぐ閉塞するため、その前にスクリーンを設置することも考慮する。

又、浴槽内の滅菌方法としては、60℃以上の温度に循環水を加熱することで、殆どの細菌類は死滅するため、最も原始的且つ確実な方法であるといえる。しかし、この温度で給湯直前に水と混合することで温度を下げる方法も考えられるが、火傷等の事故の原因になりかねないため、仮に一度60℃以上に温度を上げても、給湯のかなり手前で温度を下げる必要がある。更に、レジオネラ属菌のように、繁殖最適温度が36℃前後で、浴槽の藻類に規制したりする場合は、温度を上げただけでは浴槽の滅菌とは言い難い。
従って、確実な方法としては塩素注入によって、浴槽内の残留塩素濃度を常に0.2〜0.4mL/Lに保持することである。
しかし、温泉水質によっては塩素を使用できない場合や、営業政策上塩素の臭気を嫌う場合等がありため、他の水処理(たとえば水族館等)で使用されているオゾン注入、UV利用も考えられる。また、レジオネラ属菌除去に関しては、菌のサイズが長さ2〜20μ、幅0.3〜0.9と比較的大きいことから、精密ろ過膜(MF)や限外ろ過膜(UF)による除去も考えられる。

1.2維持管理の概要
前項で循環型温泉における設備の概要について述べたが、維持管理が適正に行われなければ宝も持ち腐れどころか、安全衛生面を脅かすことになる。この事実は、レジオネラ属菌の事故においてろ過器等に付着した有機物や藻類が繁殖の温床となったことでも明らかであろう。
水槽の汚れや水の汚染については、一般公衆浴場のように水道水使用の場合は目視でわかる場合が多いが、温泉のように源泉に色がある場合や、源泉からの析出物で浴槽等にぬめりが出る場合等、なかなか判断がつかない場合が多い。
従って、維持管理の基本となる清掃、消毒については、国の基準を遵守すると共に、施設独自の上乗せ基準マニュアルを作成して管理に当る必要があろう。
上乗せ基準を考慮した場合の具体策の一例を以下に示す。

・ 浴槽の水を入浴客数により1週間以内でも定期的に全量交換
・ 浴槽、洗い場の清掃が容易な施設整備(防水コンセントの設置等)
・ 浴槽内の清掃のための器具備品の整備(高圧水洗浄器等)
・ 集毛器、ろ過器等の予備機の設置(1台は常に清掃、消毒を実施)
・ 浴槽等で死に水部分や汚れの溜まりやすい部分の改造

2.エネルギー利用の効率化
循環型温泉施設では一般的には循環水の加温が必要であり、近年多く見られる温泉水の加温が必要な施設も考慮すると、エネルギー利用の効率化が必要である。省エネを実施することは運営費の低減による経営改善のみならず、地球温暖化にも貢献することが出来る。
コスト縮減と安全衛生面の確保にとどまらず、最近のエコロジーブームを反映し地球環境面をも考慮した施設ということで、集客力の向上にもつながる可能性もある。
このためには、既存設備の効率的運用はもちろんのこと、他のエネルギー設備を導入することで大きく改善される。新規導入設備は地域特性、施設のエネルギー構成(熱電比)等により大きく異なるため、個々に調査を行い当該施設におけるエネルギーのベストミックスを計画することが必要である。ここでは、対象とするエネルギー源を4項目に大別し、それぞれの特徴、適用可能性等を検討する。

・自然エネルギー:太陽光発電、風力発電、小水力発電
・温泉熱利用:ヒートポンプ
・コジェネレーション:エンジン、タービン、燃料電池
・バイオマス利用:燃料利用(木質系)、メタン発酵ガス利用(生ごみ系)

既存設備でのエネルギーフローを図2に、上記エネルギーを活用した場合のベストミックスフローの一例を図3に示す。


図2 従来型のエネルギー利用概念図



図3 ベストミックス型エネルギー利用概念図(網掛け部分の設備追加)の一例



2.1自然エネルギー利用
太陽光発電は現状ではイニシャルコストが高いため、発電コストが割高となる。従って、補助金や防災目的の非常用電源等、他の用途と組み合わせた形で設置することが考えられる。維持管理費はそれ程かからないが、積雪地域では散水等による融雪設備が必要となる。
風力発電は現状で最も安価な自然エネルギーであるが、採算性確保のためには1000kW級の大型風車でも平均風速6m/s以上の風速が必要である。一般的に温泉施設を強風地域に建設することはないため、設置場所と施設が離れ、送電線等のコストが追加される。また、羽根の風切音が出るため宿泊設備や住宅近傍での設置は難しい。従って、風力発電を設置する場合は、出力10kW以下の小型風車とし、太陽光発電の場合と同様に、採算性以外の点を重視することが必要となる。
小水力発電は太陽光、風力に比較すると非常に安定した電源となりうるが、ある程度の水量(一般的な温泉の湧出量の100倍以上)と落差(一概には言えないが10m程度以上)が必要である。また、この様な水源には一般的に水利権が設定されており、発電のためにはこの問題を解決する必要がある。
その他の自然エネルギーとしては、地熱や波力等があるが、いずれも大型の設備となり、今回の検討対象としては適さない。

2.2温泉熱利用
温泉熱や浴槽・洗い場からの温排水を利用し、源泉の加温やシャワー・床暖房等の給湯に利用が出来る。源泉温度が給湯温度(約50℃)に比べ十分高い場合は、熱交換を行うだけで利用可能だが、低い場合はヒートポンプにより熱をくみ上げて利用することになる。
実施例として北海道滝川市の「滝川ふれ愛の里」がある。(図4参照)
滝川市の場合は、温度の低い源泉(約30℃)の一部を利用し、浴槽へ供給する温泉温度を上昇させると共に、シャワー・床暖房等の給湯と空調用の冷水、温水供給に利用している。

   温度条件:空調用冷水(循環使用) 15℃→7℃に冷却
        空調用温水(循環使用) 45℃→50℃に昇温
        給湯用 50℃で供給

   主要機器:冷房・床暖房用水熱源ヒートポンプ 2台
         加熱能力1005MJ/h(240Mcal/h)、冷却能力720MJ/h(172Mcal/h)
        給湯用水熱源ヒートポンプ 2台
         加熱能力1005MJ/h(240Mcal/h)
        補助熱源機 電気温水器 定格72kW


図4 「滝川ふれ愛の里」温泉熱利用 フロー 3)



2.3コジェネレーション
電気と熱をオンサイトで同時供給することで、エネルギーの利用効率を80%程度まで高めることが出来る。使用する原動機としては、エンジン、タービン、燃料電池が考えられ、使用燃料も石油類、ガス等が選択できる。
それぞれの特徴は、熱電比で一般的には電気の出力が燃料電池>エンジン>タービンとなる。熱と電気を併せた総合熱効率はほぼ同等である。温泉施設の場合は加温の為の温熱主体で選定したほうが有利と考えられるため、タービンが適しており、燃料も排ガスがクリーンなLNG等のガス使用が有利と考えられる。

2.4バイオマス利用
バイオマスは有機系廃棄物(未利用資源)の総称として使用されることが多いが、内容は大きく二つに大別される。区分の要因は主に含水率で、水分が少なく燃料利用が可能な木質系バイオマスと、水分が多くそのままでは燃料としては利用できない生ごみ・糞尿系のものに別けられる。
後者の場合は、エネルギー回収を行うには微生物によりメタン発酵させ、発生するガスを利用することとなる。
バイオマスは化石燃料に比べ、発熱量が低く燃料効率が悪いと共に、ハンドリングが悪く、かさばるため、機器が大きくなり建設・運転コスト共に割高となる。
従って、バイオマス利用の場合には、次のようなバックグラウンドが必要である。

・現状、廃棄物としての処理に困っている(コストもしくは法規制)
・安定した供給が可能である(農作物由来のような季節変動がない)
・地域産業活性化施策の一環として利用を推進する(製材所木屑、家畜糞尿 等)

木質系バイオマス利用の場合は、小規模ではストーブ、大規模ではボイラが一般的に使用される。現状ではこれらの利用が盛んな北ヨーロッパの製品が多く利用されている。
生ごみ・糞尿系バイオマス利用の場合は、メタン発酵によりバイオガスを回収し利用する。バイオガスの成分は約2/3がメタンガスで残りが炭酸ガスで構成され、発熱量は約6,000kcal/Nm3で都市ガスの2/3程度である。利用の際には、ガス中に含まれる硫黄分を除去するための脱硫装置が必要となる。
ボイラやガスエンジンでは、効率が低下するもののそのまま利用できるが、将来的に普及が見込まれている燃料電池の場合には、炭酸ガスをある程度除去する必要がある。
メタン発酵設備は、有機物を微生物により分解するため、20日程度の滞留期間が必要で、設備費が割高になるため、廃棄物処理設備としての位置付けが必要である。また、メタン発酵残渣の利用方法、発生した汚水の処理を十分検討する必要がある。



参考文献
1)「空気調和・衛生工学便覧第12版」 (財) 空気調和・衛生工学会編 1995年3月25日
2)厚生労働省ホームページ http://wwwhourei.mhlw.go.jp/
3) (財)ヒートポンプ・蓄熱センター カタログ


株式会社荏原製作所  http://www.ebara.co.jp/



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