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日本の温泉地再生への提言 [68] -第2グループ 学者・専門家・団体

温泉と癒し

後藤 治久
神奈川衛生学園専門学校 学校長



日本の温泉地は何を求められているのか
日本は火山国で温泉が豊富である事は周知の事実である.全国各地に温泉地があり、それぞれが今後のありかたを模索している.
 今日本の温泉地に求められているのは、「温泉地の再生」ではなく「人間の再生」だと思う.それを「人の癒し」と言い換えても良いのだろう.多様な人の要求に対応するには、様々な特色をもった温泉場と多くの施設も必要となる.若年層・中堅層・熟年層、女性層・家族層、個人・団体等に対して何が提供できるかを考えなければならない.積極・能動的な療法と消極・受動的的療法を組み合わせることにより、「人の癒しの場」としての「温泉地」として機能していくべきだろう.
  
日本の気候風土と温泉
 日本の特徴として挙げられる点は、「島国―周囲が海、離島が多い」で「火山国―温泉と山河」、四季があることである.海という資源を活用すると「海洋療法(タラソテラピー)」となり、温泉療法と組み合わせることが考えられる.「砂風呂」は、海岸の砂と地熱を利用したその具体な例であろう.海水そのものに浸かることによって、海水の寒熱効果、海水中のミネラル等による生理効果、水圧による圧迫効果、波海流による抵抗運動効果、潮風
の喘息等呼吸器への効果が期待できる.転地(特に離島)により、仕事や日常から隔絶され、ストレスよりの解放されリラクゼーション効果をもたらす.これが島国の活用である.
山河が多いということは、自然が豊富であるということに繋がり、また高原気候・高山気候と温泉療法を組み合わせることも出来る.高原や山を歩くことにより、循環器系や呼吸器系に影響を与え、森林浴も期待でき旨い清水を飲める.温泉については多彩な泉種があり源泉の数もおおく、飲泉・吸入の習慣は少ないが浴(療法)として既に利用されている.
四季があることで、季節による転地療法が可能になる.

クアー(保養)と健康
 日本では温泉を、もっと治療法として法的に位置づけがされる必要があるだろう.温泉は慰安との意識が強いようである.温泉 医を医師の学会で認定したりしているが、ドイツのクアー休暇制度のように、40才以上の国民が専門の医師より生活習慣病の診断を受けると、4−6週間の保険適用の治療休暇(さすがに有給ではない)をクアーオルト(候補地の中から選択可―ほとんどの場所は田舎)で、温泉療法を含む水治療法・マッサージ運動法を含む理学療法・食事療法・薬物療法等トータルな治療が受けられる.医療制度として確立しているので、勤務先の了承も得られ、勤務者としては素晴らしい環境である.介護保険が導入されるなど我国の保険制度が変化してきている動きの中で、国民の保養・健康づくりを目指すために、温泉および温泉地の活用は欠かすことの出来ない課題ではないだろうか.
温泉地の設備・環境整備
 温泉地の活性化を図るには、アクセスの問題があると思うが、長期滞在型・治療型温泉地(クワーオルト)についてはさほどの整備は必要ないと思うが、通所型温泉地および混合型については自家用車や公共の交通網整備が必要であろう.
 長期滞在型温泉地には、病院・宿泊施設・食堂・温泉施設・プール・体育館・理学療法施設、散策用森林やトレッキングが出来る自然環境等が必要で、周囲の自然環境を出来るだけ破壊しないで済むことを第一に配慮すべきだろう.自然環境を守るために、街への車両乗り入れ全面禁止にすべきである.スイスのツェルマットはまさにその実例で、街中を走っているのは電気自動車(工事車両ですら)か馬車位である.
 通所在型温泉地には、病院や宿泊施設等は不要だが、付加価値としての設備が必要になってくる.
 いずれの施設についても、問題になってくるのは治療の人的資源である.予防・治療・更正医療を温泉地再生の前面に出すと、厚生労働省の資格管轄の、医師・看護師・理学療法士・薬剤師・(管理)栄養士・あんまマッサージ指圧師・健康運動指導士(健康運動実践指導者)、文部科学省管轄のスポーツを指導するアスレティックトレーナー、(スポーツ)心理学者、カウンセラー等各種の人材が必要になるし、患者に対していかに質の高いチーム医療を提供できるような治療システムを構築するかが問題である.
 現在、医療分野では、代替医療・補完相補医療から統合医療がクローズアップされてきているが、日本独自の治療法である「あん摩」を見直したらどうであろう.日本から世界に発信できるオリジナルな「温泉地」になるのではないだろうか.

人を癒すのは人
 江戸時代には「あん摩医」がいて、人々の治療をしていた.
 温泉あん摩といわれる様に、温泉地にて盛んにあん摩は行われてきた.入浴した後就寝前、浴衣を着て揉んでもらい熟睡.翌日の活力を得る.りっぱな疾病の予防医学として機能してきた.しかし実際は慰安のレッテルを貼られ、治療よりランク下の評価をされきてしまった.これはあん摩を行ってきた側にも問題があった.治療というより慰安であるということに自分たちが安住してしまって、向学心を失い「どうせ慰安なんだから、シビアでなくていいんだ」と言い訳してきた.そのうえ業者が経済的理由等から無免許・無資格の者を使わざるを得ず、彼ら自身も一回きりの施術だと思っていたことも評価を下げてしまった理由である.
 人体の全身の経絡を巡る気血を調整して、疾病を予防し治療する本来のあん摩術を、厚労省の医療国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」に施術させることにより、温泉地へのお客さんの再来の可能性を高めることが出来るだろう.また障害者の就業対策としても有効な方法で、全国の盲学校でも「あマ指」教育が行われていて、国家試験で資格を収得している.人体の微妙な変化歪みを手で感知し、徒手にて調整することの理論・実技を三年間約2500時間学んできている専門家に任せてみてはどうだろう.
ストレスからの解放
 ITにより最新多量の情報が蓄積できるようになった反面、ストレスも蓄積する一方である.自分で解消できる以上のストレスから解放されるには、「自然の中で」「温泉につかり」「身近で採れる物を食し」「適度の運動をし」「きれいな空気を呼吸し旨い水を飲み」「あん摩を受ける」.そんな環境を最低2−4週間、国民に安価にて提供できたら、かつてない快挙である.


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