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日本の温泉地再生への提言 [42] -第2グループ 医学

健康増進のための温泉地の活用

勝木 道夫
(石川) 財団法人 北陸体力科学研究所理事長


基本的な考え方
〜これからの温泉地に必要な要件〜

1)「温泉療法」でなく「温泉地療法」更に「健康増進医学」の基地であること。(健康寿命延伸寄与能力)
2)経営理念が真面目で、科学的に満足でき、何よりも清潔・衛生的であること。(責任感)
3)滞在中に健康4要素、運動・栄養・生活リズム・保養それぞれについてインフォームドチョイス(説明と選択)→エビデンスからプラクティス→行動変容を達成できる仕組みのあること(生活習慣是正能力)
4)係員はアンドラゴジー(成人の特性を生かした教育学)、EBMとNBM、家庭医療学、ウェルネスリハビリマインド、行動変容手法に精通した能力を有すること(専門性)
5)メディカルチェック・フィジカルチェック・生活習慣チェック機能を有し、その結果に基づくそれぞれの処方を出せること。(医科学性)
6)利用効果が利用者にはっきりわかるデータの集積機能を有し、専門各科と強い連携のある医療機関を有すること。(責任性)
7)自然環境と共に知的向上心にこたえ得る文化財の存在と地域住民のホスピタリティが存在すること。(心の健康増進能力)


温泉地の再生のあり方
クリアーすべき問題点と課題

1.温泉水の問題

a 過剰開発→湯枯れ問題。浴槽の容量制限、揚湯装置の許可の厳格化。水位測定。
b 情報開示。源泉100%か、加水、加熱温泉水再利用か。循環式か。殺菌は塩素かオゾン装置か。浴槽やろ過機の構造は。毎日換水してブラッシングしているか。レジオネラ検査日と結果の証明書掲示/温泉管理士の存在の有無。露天風呂と屋内浴槽はパイプで直通していないか。
c 温泉の効能効果は源泉水でなく浴槽内の温泉水で検査すること。どの程度の利用で表示の効果が出るのかも明示すること。

2.人の問題

a 経営理念の問題。健康第一。歓楽系の払拭。低俗性との絶縁。金儲け主義からの脱却。温泉医科学の再勉強とホスピタリティ、運動、栄養、生活リズム、保養に関する再勉強。町ぐるみ健康保養地づくりへの市町村、文化団体、商工会、温泉専門医、スポーツ医、心理士、管理栄養士とのネットワーク。
b トップダウンでなく、市町村民の健康意識の盛り上がりをはかり、フィンランド症候群1) を防ぎ、クオリティ オブ コミュニティ2) による後押し態勢の社会力の構築。
c スポーツ・文化活動・栄養・心の健康にたずさわる委員は単なるボランティアでなく、身分保障が確立していること。(キーパーソン養成)
d 性別・年代別にではなく、4世代、男女差別なく、より効果的な組織づくりにより総合型スポーツクラブ、生活改善、栄養調理実習、文化スクールが行われていること。

3.健康温泉保養地に必要な設備、システム

a アンドラゴジーを基本にした健康教育ホール、交流センター、研修センター
b 温泉・入浴に関する博物館やビデオシアター、図書館、インターネットサイト。
c サウンドヒーリング体験館、絵画館
d 地域の自然、文化、産業資料館、展示場。
e スポーツ施設、ウォーキングコース、歩行療法コース、サイクリング、ジョギング、ドッグと憩うコースや広場、ゴルフ、テニス、パークゴルフなどニュースポーツ、身障者向けスポーツ施設、フィットネス測定場、幼児向けスポーツ場、スポーツ相談場。
f 自然環境、ハーブ植物園、ガーデニングセラピー庭園、バードウォッチング、バードソン等文化とスポーツとドッキングできるコース、山菜採り体験、森林浴、山登り、魚釣り、タラソテラピー、キャンプ、昆虫採集、押し花、草木染め、華道(ハーブティを含む)万葉植物園など文化と自然のドッキング、学習散策、そば打ち体験、郷土料理、空気浴、温泉卵。
g インフォメーションセンター、地元特産品の飲食コーナー、調理コーナー、レストラン。
h 宿泊施設、ホテル、旅館(シングルユース可能)、民宿、自炊キッチン付きアパート、中長期滞在保養向き宿泊施設、スポーツ合宿用宿舎、オートキャンプ場、スポーツ少年団等学童生徒用宿舎。
i 温泉保養他目的センターリフレッシュ・レクリ施設、トレーニングジム、ペースメーカー付きランニングトラック、各種水治療法室、バーデゾーン、サウナ、水中レクリエーション施設、幼児プール、歩行運動浴槽、運動型健康増進施設(メディカル、フィジカル、生活習慣チェックとその結果に基づく処方と指導、相談)高齢者コミュニティセンター、パワーリハビリテーションセンター、患者本位の理念による病院、診療所、生気象学に基づく健康相談所、レジオネラ等の教育相談所。禁煙プログラム相談所。

4.国内外の参考に資する温泉保養地

内外の温泉地はそれぞれの特色があり、それぞれ活躍がみられるが、日進月歩の健康増進医学にきちっと対応する努力がいずれも不十分である。町ぐるみ、市民参加型の健康づくりを文化とした温泉保養地を目指し、医学体力科学、行政当局、商工会議所を一体として取組む(財)こまつ健康の里づくり財団の形が最も理想的である。

5.国や自治体の施策

医療、介護など川下対策ではなく、健康増進に軸足を移すべきである。温泉地療法を重視して、市民参加型の下から盛り上がる健康志向をバックアップすることで、天井を打っている医療費、介護費の削減をはかることができる。
日本医師会が本年からの方針として、健康スポーツ医師研修会のテーマに「健康増進と温泉療法」を選んだのは正解で、更に発展させてゆくべき方向である。

6.重装備の大病院で対応できるのは現代の死因の10%にしか過ぎない。生活習慣の是正のため、生活習慣の歪みの行動変容を成功させる場として温泉地療法は最適な手段である。

 例えば禁煙プログラム一つ取り上げても
1)禁煙支援を個人対応に。大病院の呼吸器内科で行ってもストレスが多く効果は少ない。
2)健康阻害はタバコ単独のしわざでなく、不規則勤務、長時間労働、ストレス、不規則な食事、コーヒー、牛肉、飲酒、マスタードなどの要因がからんでいる。
3)温泉治療法が禁煙支援に適している理由
・非日常性生活と健康指向環境
・セカンドコミュニケーション健康教育
・性別なくあらゆる年齢層対象
・家風、日常生活の客観的観察ができる
・禁煙成功者、失敗者例の勉強可能(円卓会議方式で)
・禁煙支援の人、物、時間、方法、グッズの用意
・健康への行動変容についての教育に慣れた係員
などがあげられる。

7.北陸のK温泉は湖畔にあり、高さ100mの噴水を設置したが、ヘドロのつまりで30mしか上がらなくなり、市へ補助を要請している。レジオネラは水滴、しぶきで感染するものであり湖沼に設置した噴水による感染の実例の報告もある。温泉地に噴水の設置はその温泉地がレジオネラに全く無知であることを高価な費用で宣伝している事になるのであるが、その温泉協会は気付いていない。おそらく温泉浴槽のレジオネラ対策も遅れているものと思われる。

温泉を健康のために活用するためには、何よりも
1)衛生的であること
2)ホスピタリティ溢れている事
が大切である。
温泉地の板前さんにC型肝炎の多いこともかねがね大いに気になるところである。


(注釈)
1)フィンランド症候群
強制された健康指導では実効があがらないと言うこと。フィンランドで実証されたことからこの言い方となった。
2)クオリィティ・オブ・コミュニティ
地域ぐるみで暮らしの質をあげると言った考え方。QOLをもじっての造語。


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