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日本の温泉地再生への提言 [39] -第2グループ 医学

これからの温泉地利用を考える
―温泉地活動体験から―


片桐 進
(山形) 山形県医師会検診センター医師


健康のための温泉地利用
 贅を求める団体旅行客の受け皿としての温泉地利用の時代は過ぎ去り、今や、温泉利用者のほとんどが、温泉地に「癒し」の場としての機能を求める時代になった。温泉地関係者は、これらの利用者のニーズにあわせて、「温泉地再生」を真剣に考えはじめている。筆者は、山形県北部の大蔵村肘折温泉郷で温泉療養相談を継続実施しており、「健康のための温泉地利用」に関する私見を以下に示してみたい。
温泉利用者からの相談、問い合わせをみると、「リウマチに効く温泉は?」「糖尿病に効く温泉は?」「がんに効く温泉は?」などのように病気の改善を目的とした温泉の効能に関する質問から始まって、温泉入浴の方法についての相談がほとんどである。このような、病気の改善を目的とする温泉地利用もあろうが、病気になる前に、日常生活活動で歪みが出来、病気へと傾きかけた心と体を調整し、健康城田へと回復する、すなわち体調を整えることを目的とする温泉地利用がある。言い換えると、古き時代の農民が農閑期に最寄りの温泉地を訪れる「湯治」である。
 
これが本来の県のための温泉地利用であると筆者は考えている。「転ばぬ前の杖」としての利用である。
このような温泉地利用は、東北地方にまだ根強く残されている。

温泉地の再生のあり方
国民全員が健康志向の時代を反映して、各温泉地では健康のための温泉地利用を目指して自らの温泉地進むべき方向性を模索している。筆者は、温泉地の発展を望む者の一人として、このような動きを歓迎しているものの一部の温泉地を除いて、ほとんどの温泉地が同じような将来像をイメージしている傾向が伺われてならない。
各温泉地は、その規模、立地条件等において異なることから、当然、それぞれの進むべき方向も異なることを十分に認識することが重要であろう。それぞれの温泉地にはそれぞれの温泉地らしい将来像があるはずである。

 そのような観点に立って、温泉地の再生のあり方についての私見を述べる。

 温泉地来訪者の求めるものを探ってみると、ひとときの贅沢に日頃のストレスの解消を求める者、数日の癒し体験を求める者、つらい症状の軽減を期待する者、あるいは病後の体力・運動能力の回復を期待する者などいろいろである。したがって、それらの利用者を受け入れる温泉地にもいろいろのタイプがあってしかるべきであろう。そして、温泉地再生には、温泉地経営者、それを支援ンする国や地方自治体および温泉療養に関する専門家団体(日本温泉療法医会など)の努力と協力が必須です。以下に、それぞれの努力すべきことについて列記する。

1.温泉地経営者の努力
 温泉地経営者および従業員は、自らの旅館の経営理念のみならず温泉地全体の発展に関する共通理念を持ち、さらにその共通理念が温泉地地区住民全体に広がる努力をすることが重要である。
その現実には、自ら学び、磨くことが重要であり、例えば、温泉地来訪者の心が満たされ、目にみえる「おもてなし」について常に勉強し、それを実行すべく努力することである。
まず、行うべきことは:
1)自らの温泉地の歴史についての研究・勉強
温泉地の歴史にふさわしい街づくりと周りの自然環境の整備を行うとともに、来訪者が、その歴史について興味を持ち、理解できるようにする(自らの温泉地の良さの主張)。新しい温泉地では、これから歴史を築いて行く努力を継続することが必要である。
2)自らの温泉地への来訪客の実態把握
 自らの温泉地来訪者の、年齢分布、原罪治療中の疾患(来訪客の基礎疾患)および来訪の目的、さらに滞在期間およびこれまでの利用状況、加えて温泉地生活において良かったこと、感激したこと、不快であったこと等に関する実態調査を定期的に実施する。これらの結果は、温泉地の対応をより良くするための改善の方向づけに重要な基礎資料になる。
例えば、来訪客の基礎疾患の調査結果が、糖尿病、高血圧症、尿酸血症などの生活習慣病が多かった場合は、それらの健康状態に適切な食事の選択ができるシステムを整えることを計画する時にすばらしい基礎資料になる。
3)近隣の観光スポット、スポーツ施設、散歩道等の情報および地域内の危険箇所に関する情報の収集と発信
 近隣の観光スポット、スポーツ施設、散歩道等の情報および地域内の危険箇所に関する詳しい情報について、来訪客が必要な時に直ちに案内できるように、情報の収集に努力し、必要時に、積極的に案内する心配りを忘れないという姿勢が、来訪客に満足感を提供し「また来てみたいなあ」という気持ちを芽生えさせるのである。
4)来訪者に『見える心遣い』を、『感ずる心遣いを』
 温泉地のすばらしさを来訪者が感ずる時は、温泉街あるいは散歩道などに設置された案内板のみならず「さりげなく置かれた、その温泉地をイメージする特有のデスプレイ」などであり、心温まる接客の心遣いを肌で感じた時である。
これを実現するには、温泉地経営者および従業員は、他の温泉地(温泉地づくり、街づくり、接客対応の良さで有名な温泉地)に旅行して、一般来訪者として「おもてなし」を受け、その良い点、悪い点を体験することから始める必要であろう。
接客の心は、心温まる心遣いを肌で感じて初めて深く理解することができる。
頭で理解する勉強ではなく、からだで、心で理解する勉強をすることであろう。

2.国および地方自治体の支援努力
 温泉地の活性化(地域おこし)活動は、温泉地の住民が主役となり計画・実行することが理想であるが、大部分の温泉地の場合、国および地方自治体の支援がなければ成功をみることはかなり難しいと考えざるをえない。特に、地方自治体の支援・指導が必須である。
しかし、地方自治体が主導権をとらにように十分な注意が必要であろう。
以下に、国および地方自治体が積極的に推進していただきたい事項をあげると:

1)温泉地利用に関する専門家の養成
温泉療法医、温泉利用指導者、運動指導士等の専門の養成と、それらの専門家が、各温泉地等で活躍できるような環境づくりを推進することが必要である。
2)温泉地利用の正しいマナーの普及
 最近発生した温泉地におけるレジオネラ肺炎の患者発生事件は、利用者が浴槽に入る前に身体を洗わず、この細菌を体表に付けたまま入浴していることに起因すると考えている。公衆浴場においては、浴槽にタオルを入れないというマナーはよく守られているが、入浴前に身体をよく洗うという昔からの入浴マナーは忘れられたのか全く守られていないのが現実である。強力な行政指導・衛生教育が必要である。
3)温泉地が画一的にならないように監視指導することが非常に大切


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