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日本の温泉地再生への提言 [20] -第1グループ 官庁・自治体

石川県の温泉地再興に向けて

谷本 正憲
(石川県) 県知事


 石川県は山中、山代、片山津、粟津温泉の加賀温泉郷や和倉温泉、輪島温泉郷など全国有数の温泉地があり、これらの温泉地は本県の重要な観光資源の一つとなっております。
 しかしながら、バブル経済崩壊後の長引く景気の低迷や観光ニーズの変化などの影響もあり、平成4年をピークに入り込み客が減少するなど、これらの温泉地を取り巻く環境は大変厳しい状況にあります。多くの温泉地を持つ本県の観光振興においては、温泉地の活性化は大変重要な課題であり、これまで、地元市町村や関係団体と連携しながら、泊食分離用の食事処や貸切露天風呂など、温泉旅館の前向きなまちづくりの推進、街並み修景等の整備に対して支援するなど、さまざまな施策を推進してきているところであります。


見直される温泉の役割  −健康と保養が温泉地再生のカギ−

 温泉地に対するニーズや温泉地を訪れる形態については、社会経済情勢の変化や、観光ニーズの個性化、多様化などを反映し、これまで主流であった団体、グループが慰安や親睦を兼ねて温泉地を訪れていたものが、家族や気が合った小グループが本物ややすらぎを求めて温泉地を訪れるようになってきているとともに、温泉地に癒しを求める傾向が強くなっております。
 すなわち、温泉は、昔から湯治という形で健康と保養のために活用されてきており、例えば、かけ流しであるかどうかや泉質等を尋ねる観光客が見受けられるなど、今日、温泉本来の姿が求められていることから、温泉を観光だけではなく、健康と保養のために活用することは、温泉地の再生のための方策としては、大変重要であると考えております。 こうした近年の観光ニーズを踏まえ、温泉地の再生には、これまで以上に、保健医療や健康推進、保養の性格を強化するなど、温泉の多目的利用や滞在型観光を推進する必要があると考えております。
 本県の温泉地においても温泉の効能や入浴方法をあらためて見直す取り組みが見られるとともに、山中温泉、片山津温泉などでは、既存施設が温泉を活用した福祉施設へ転換するなど新しい面での温泉の活用が図られております。
 このような中、今回「健康と温泉フォーラムやまなか」が開催され、長期滞在型温泉保養地づくりに向けた議論が深められたことは誠に意義深いことであります。


街歩きが楽しい温泉地づくり  −温泉地の取り組み−

 同時に、温泉地を訪れる方々は、単に旅館内で食事や温泉を楽しむだけではなく、温泉街に出て、温泉街のそぞろ歩きや自然散策、地元の人々との交流などを楽しむ傾向が強く、そのためには、温泉情緒が感じられる街並みの整備や周辺の自然環境の保全などハード整備や、旅館をはじめ、商店街、住民の方々等も含めた温泉地全体のホスピタリティの向上、賑わい創出のためのイベントの実施などにより、訪れた方々が楽しめ、「訪れて良かった」、「もう一度訪れたい」と思っていただける環境づくりが必要となります。
 本県の各温泉地においても、目抜き通りの整備により温泉街のイメージが統一されるとともに、山中温泉の「山中座」をはじめとする新しい観光施設の整備、そぞろ歩きや自然を楽しめる散策路の整備、住民のガイドにより温泉街の名所を周遊するバスの運行、柴山潟や七尾湾での周遊船の運行、地元の魅力ある食材を活用したイベントの実施、伝統工芸の体験処の開設や工房めぐりの実施など、温泉地が一体となったまちづくりを積極的に推進しているところであり、本県も地元市町とともに、こうした取り組みを支援しております。


長期滞在が可能な仕掛けづくり  −温泉旅館の取り組み−

 長期滞在を促すためには、旅館の宿泊料金の設定についても工夫する必要があると考えます。
 これらは、各温泉旅館において、現在の一泊二日の料金体系から、泊食分離や連泊割引、B&Bなどによる低廉な料金体系、施設・料理やサービスの多様化に対する検討など経営戦略の確立が必要であり、お客様に長期滞在してもらうため、温泉地の周辺地域の観光施設や体験メニューも含めた幅広いニーズに対応できる仕掛けが必要になってくると考えます。
 本県では、温泉旅館がこのような経営革新を図る取り組みに併せ、まちづくりと一体となった設備投資を行う場合の支援制度を設け、活用を呼びかけたところ、多くの温泉旅館において、泊食分離用の食事処やそぞろ歩きの方々のための休憩処、ギャラリー等活発な設備投資が行われたところであります。


温泉療法、健康増進への温泉活用  −国における規制緩和−

 さらに、ヨーロッパ諸国では、各温泉地に温泉の専門医が常駐し、その指導のもとに温泉療法が行われており、また医療保険の適用も受けていると聞いております。しかし、残念ながら国内では、日本人の温泉好きと言われながらも専門医の数も少なく、そのような温泉地が大変少ないのが現状であります。日本でもヨーロッパのように温泉療法を医療保険適用の対象にすべきとの声もあり、今、この古くから経験的に知られてきた温泉の療養効果が改めて脚光を浴びております。特に、本県には温泉地が多く、観光資源としての役割と同時に、健康増進施設としての役割もありますので、これらを有効に活用しながら地域の活性化を図るということが大事でありますし、例えば、温泉旅館が健康増進施設としての認定を受けることができるよう、国において規制緩和をしていただくことも一案であると考えます。
 国民健康保険中央会がまとめた温泉の役割や活用方策に関する研究によれば、温泉施設を積極的に活用した全国の自治体で一人当たり老人医療費が減少し、温泉療法は医療費抑制に効果があるとされております。これは、温泉を活用した保健事業ということで、健康づくりや生きがいづくりが推進され、老人医療費の削減効果が期待をされるということでもあり、温泉は、病気にかかる前の予防保健としての効果があるとも考えます。


個性豊かな温泉地まちづくり −地域が一体となって−

 温泉地活性化のためには、個々の温泉旅館の再生もさることながら、商店街や地元住民など、温泉地に暮らす人々が一体となった温泉地まちづくりを推進していく必要があります。このまちづくりにおいても、それぞれの温泉地の地域特性等を生かし、その温泉地にしかない個性を打ち出していく必要があると考えます。このため、本県においても、主要な温泉地で旅館、商店街、地元住民、行政などから構成するまちづくり推進委員会を設置し、「さまざまな花がみつけられる温泉」や「湯けむりの漂う渚の温泉地」など、温泉地の方向性を定めた温泉地まちづくり計画を策定いたしました。現在、その計画の実現に向け、地域が一体となった個性豊かな温泉地まちづくりを推進しており、それらの取り組みに対し、行政としても側面から支援しているところであります。
 温泉療養分野での活用は、既に、片山津温泉や箱根などに民間の実例もあり、新しい方向での温泉の活用として、歓迎すべきものと考えております。
 このような分野への取り組みには、施設の収容定員に関する制約等の課題など、いろいろありますので、具体的な相談があれば、「中小企業再生・事業転換支援プログラム」を含め、県としてどのような支援が可能か、十分に検討していきたいと考えております。


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