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日本の温泉地再生への提言 [3] -第1グループ 旅館・温泉地リーダー

抱え込み経営と三廻り逗留

倉沢 章
(別所温泉)上松屋旅館 社長


 別所温泉は平安時代から栄えていたと言われる信州でも最古の温泉であり、自然美と史跡と温泉で代表されます。長野県のほぼ中央、上田市に位置し長野新幹線上田駅より12km、私鉄上田交通電車で25分の所にあり上信越高原国定公園の菅平、浅間の噴煙、また2千bの高原「美ケ原」が一望される景勝地で海抜7百bの静かな高原の中にたたずむ温泉観光地です。歴史的にも名所旧跡が多く国宝「安楽寺八角三重塔」を始め、善光寺ゆかりの北向観音堂、前山寺、信州夢殿、信濃国分寺など国宝重要文化財が歴史の面影をとどめ、京都、奈良に継ぐ歴史的建造物の宝庫となっており、人はこの地を『信州の鎌倉』と命名し、観光信州の代表地として訪れるお客様に喜ばれております。温泉は摂氏52度、硫黄泉で無色透明。リュウマチ、神経痛、外傷、病後の疲労回復、糖尿病等に効能があり、また美人の湯とも言われ御婦人に愛湯されております。最近の年間宿泊客数は温泉旅館19軒で18万人の宿泊客と4つの共同外湯に32万人の利用客が記録されてます。温泉地は地域住民も生活し、温泉地の核である北向観音堂を中心に5百bの範囲で扇型に位置取りされた温泉街には中央に愛染川と呼ばれる湯川が流れ、温泉街の入り口には終着駅である別所温泉駅からお客様の入込み風景が一般的な光景である。この終着駅と平行して、現在空き地となっている別所小学校の跡地が運よく存在し、今後この跡地の活用と、上田交通別所電車の存続が、当温泉発展の重要な鍵を握るものと推定される。以上、温泉地の概要とアピールポイントについて記させてもらいました。

 温泉地の再生のあり方について述べさせてもらいます。私自身は温泉旅館経営者でありますから、地域再生も勿論ですが、その前に旅館主として周到すべきポイントが3点あるとおもっております。まず一つは『囲い込み経営をしない』ことだとおもいます。年代層をキャッチして研究してその年代のお客様にどんなことをしたら喜んでいただけるのかという命題ばかりとらわれているため、サービスの行き過ぎが慢性化してしまい、お客様不在のサービス競争を始めてしまっていた。今この時代にお客様とともに宿主自身も年を重ねるということを旅館経営の原点として戻し、根付かせることが必要だ。すなわち、できるかぎり、過剰なサービスはやめ、無駄を省き、すべて整わなくても旅館経営ができるという考え、既存の温泉街にあるものは旅館内部(館内)には装置しないようにすることだ。まず、外湯は地域全体で外来客と住民用に利便性を高め、整備する。旅館内の内湯は温泉貸与量の範囲で浴槽を設備し、天然掛け流し温泉に徹底し、提供を継続する。売店はできるかぎり館内に作らない。温泉街にはお土産品店があり、そこには旅館の売店よりも品揃えも多く、数量もある。ところが旅館内部で同じようなものを販売するから、お土産品店の品物は回転が悪くなり、在庫を抱えて経営難となっている。煙草の自動販売機も同じこと。販売機がないことにより、それを求めに、温泉街の煙草屋さんへ、下駄と浴衣で散歩ということになる。その外出で住民と挨拶があったり、夕餉の匂いを感じることができる。これこそ温泉場情緒なんです。スナックも遊戯場(ゲームコーナー)も散髪屋も同じです。必ずや温泉場に存在していました。しかし旅館が館内消費に力を入れ、お客様を囲い込むから温泉街の商売に活気がなくなり、滅びていってしまうんです。そして温泉場としての魅力も同時に無くなっていきます。昔存在していたものは今こそ復活させるべきです。伝統工芸のお店、劇場、射的、ストリップなどなど。旅館は本来の温泉場での使命をもう一度見つめ直さなくてはならないと思います。それは2点目としての旅館の生命線である1泊2食型×滞在日できちんと運営できる基盤です。そしてその部分以外は地域に役目を分担させるべきだとおもいます。昔はそれが成り立っていたはずなのに、地域と共存しなくては旅館の発展はないはずです。そして3点目は、滞在型も滞在型で三廻り逗留という3週間の滞在を現代版として温泉地で提唱してゆけるかどうかです。6日間逗留して1日帰宅、翌日からまた6日間逗留して1日帰宅、もう一度それを繰り返して、3週間の長期滞在逗留とする。それには当然自宅も気がかりになるから週1日(土曜日)は帰宅というパターンを挿入してゆく。1週間単位の3回、3週間をその人なりに有効に利用する手法は無限に広がるはずです。楽しい滞在生活を送るための知恵が滞在者に要求される。施設の側でいくら多様なサービスを提供しても、それには限界があり、いずれ滞在者も飽きてしまう。施設側(私達)は滞在生活を送るための空間と時間を感じることができるよう地域を考えていくべきだと思っている。もちろん重要なことは滞在できる料金リーズナブルに設計して提供する企業努力を怠ることはできないはず。昭和の紡績工業全盛当時、働きづめであった労働者が温泉旅館へ3週間滞在して、体力を増強して、現場へ復帰するとお給料がアップしたという話を、先代から聞かされたことがある。決して、長期滞在は高齢者や年金受給者ばかりが受け入れ年代層ではないし、今後計りしれない客層へと飛躍する可能性がある。当館で過去10年間のデーターを基に研究した結果、2泊以上の滞在客は皆無だった。しかし3泊プラン、6泊プランをアピールしたら、今では、平日に毎日発生し、安定的なお客様層に移行してきている現状からして、充分に滞在宿泊はあり、滞在保養ニーズは日本において十二分にあると判断でき、全国各地でその方向へ向かうべき提言し、これが温泉地再生主要テーマであると確信しておる今日この頃です。最後になりますが、温泉地の将来は明るいとおもいます。しかし過去のように一部の王様、殿様、豪族、富豪によってはもう地域は形勢できないでしょう。その替わり地域の旅館主を筆頭に、住民、企業家、子供たちを巻き込んで地域住民全員でエリアづくりが欠かせないこととなるでしょう。先日の産経新聞日曜版に特集されていましたスペインの聖都トレドのように迷路のように入り組んだ裏通りだが、トレドのシンボル大聖堂の鐘楼はどこからでも見ることができる運河で囲まれた街づくり。同じく、スイスのムルテン。イタリアのモンテカティーニ。フランスのエクスレバン。オーストリアのバーデンベルウィン。ドイツのフライデンシュタット。イギリスのバースに代表される12のベリテイジタウン(旧温泉都市)。これからでも私達の温泉街を大切に護りながら形勢していきたいものだ。


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