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カルルス温泉

心身症 慢性リウマチ症疾患慢性消化器疾患 火傷

<所在地>北海道登別市カルルス町
<交通>室蘭本線登別駅から道南バスで登別温泉まで15分。登別温泉からさらにバスで15分
<泉質>単純温泉

温泉療法医がすすめる温泉 阿岸祐幸
(北海道大学医学部教授 登別分院長内科/温泉医学 糖尿病)

これぞ理想の保養地。高齢化社会に温泉で予防医学を。
北海道縦貫の道央ハイウエ−によって、札幌、千歳からの登別はグンと近くなった。キツネの絵の看板が、やたらと目につく。愛嬌もののキタキツネ、ときにはエゾ鹿が道路にとび出すのでご注意を、という自然が身近かの北海道ならではの交通標識である。登別東インタ−チェンジでは、身の丈18mという赤鬼がにょっきり出迎えてくれる。登別といえば、道内どころか全国でも指折   の温泉として知られているが、そこからわずか8K離れただけの"登別カルルス"は、歴史が古い割にはそれほど知られていない。名前の由来は、はじめアイヌ語かと思ったが、とんだ見当違い。チェコスロバキアの温泉保養地カルルスバ−ドの泉質と似ているところから、その名がついたという。俗化することをひたすら拒み、山合いにひっそり息づいている、やすらぎの湯治場である。

道内最初の国民保養地に指定されたカルルス温泉
カルルス温泉は、昔"かぶり湯"と称し、頭から手桶で百杯以上もぶっつけるように浴びる風習があり、気狂い(きちがい)の湯と言われた時代があった。いまで言うノイロ−ゼやうつ病がこうじた人達が、カルルスは効くという口伝えが広まったものらしい。このため変んな目で見られる弊害もあり、宿にとっては不運のひところであったが、効くものは効く、という事実から根強い信者を作って来たことも、また事実である。泉質は含ナトリウム(カルシウム)塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉の単純泉で、温いマイルドな湯。多くのガイドブックにはラジウム含有と書かれているが、それは誤り。   ラジウムが含まれていると身体によい、という一種の信仰めいたものがあり、また温泉の老舗を強調するあまりのいさみ足である。ラジウムなどなくても、カルルスの湯は、病後・疲労回復、自律神経失調症、偏頭痛などのストレス病に効能があり、温泉そのものを楽しむお年寄りや、日頃の疲れを癒す場としては最適のところ。北海道で最初の国民保養温泉地に指定されている。

安らぎを与える海と山の風の通り道
「温泉浴もさることながら転地による心理効果、また気候と自然環境の及ぼす影響は大きい。保養や治療が目的なら、なおさらのこと」と、語ってくれたのは、北海道大学医学部教授の阿岸祐幸先生。カルルス温泉は、肌にも心地よい湯だが、海抜250mのところに位置して昼夜の気温の差も少なく、森林に囲まれて空気が清浄。それに穏やかな陽射しがある典型的な保護性気候の場所にある。朝は海から塩粒子を含んだ汐風が、また夕方から夜にかけては、あたりを囲む1,000m級の山々、ことにオロフレ峠から海に向っての風が一日1回   ないし、2回吹き抜ける。その関所にあるのがカルルスで、生気候学上の研究でも魅力ある温泉地である。海の風にはヨ−ドやカルシウム性分を含み、山からの風にはいわゆる森の精の芳香性テルペン系物質がたっぷり含まれている。この風が自律神経やホルモン系に心よい刺激を与え鎮静化作用を起こして、ストレスを解消し、不眠症や高血圧症の人達に、ゆったりした安らぎを与えてくれる。それに温泉があるのだから、登別の地獄谷ではないが正に"鬼に金棒"とはこのことである。

一夜の料金でカルルスなら三晩
カルルス温泉地は、付近一帯を含めた土地の99%を一人の地主が占めている。6軒の旅館はいわば店子で、地主は昔からの店子を守るため大手の進出を拒み続けて来た。旅館は増改築もままならず、これでは置いてきぼりを食うだけだと、ウラミ言葉もささやかれたりした。が、祖先伝来の土地をかたくなに守り通してくれたお陰で、何ものにも代え難い、いまの"自然"が残っている。登別市営の国民宿舎の支配人は、「俗化されない、この自然がカルルスの“財産”。料金収入は少ないが、それでも生き残る方法、それを考え出せばよい」と言い切る。高齢化社会と言われる時代、年金生活者にたとえ短期間でもゆっくりしてもらう。よそなら一日の料金のところ、カルルスなら3日は滞在できる。「ツムラのテレビCMでカルルスが全国に紹介された。意外な反響で   温泉の本場、別府からお客が来てくれました。自分の家の風呂にいれるんだと札幌あたりから、お湯を汲みに来る常連が、私のところだけで30人います。地主さんの協力で、旧小学校跡地にテニスコ−トやゲ−トボ−ル場を施設したスポ−ツランドが出来ました。すぐ近くではザリガニやクワガタも採れます。冬は国設カルルススキ−場が若者や家族連れで賑わいます。四国88ケ所巡礼のお遍路さんにヒントを得て、年齢や好みに合わせたカルルスならではの“お遍路遊歩道”を作りたいと思っています。健康づくりには歩くことが基本でしょう。すぐ近くに薬師寺神社や宝泉観音があります。数え切れない野鳥のさえずりを聞くバ−ドウォッチング、それに珍しい草花の宝庫です」と支配人はヒザを乗り出して熱っぽく語ってくれた。

カルルス最大の魅力の環境はオロフレ峠
登別カルルスから洞爺湖に通じるオロフレ・スカイライン。道内で3番目に高い標高930mの峠からの展望は、エゾ富士と呼ぶ羊蹄山やクッタラ湖、太平洋を一望する雄大なもの。思わず「ヤッホ−」と叫びたくなる眺めである。峠は濃霧で視界不良、通行注意の点滅信号。北海道には梅雨がないという話を聞くが、   登別にはエゾツユといって内地と同じ梅雨があるという。ところが、峠のトンネルを抜けると、ガラリ、ピ−カンの好天気に変っていた。オロフレ峠の、このなんとも不思議な気象、これがカルルス最大の魅力の環境であろう。阿岸教授の話に、まったく“納得”の一コマであった。
 
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