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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第28回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



田舎へ帰ったのんびり気分横溢
大沢山温泉 (新潟県)






 何年ぶりかの豪雪で雪の深い魚沼の里にも、3月を過ぎれば春の気配が濃くなってくる。道路の雪が消え、田んぼの土が匂いはじめ、木々の小枝に紅や緑の新芽が吹きだしてくる。越後の山々も雪が斑となって陽の光を反射し、側溝を流れ下る雪解けの清水がさわやかな音を立てはじめた。フキノトウが開き、アケビの芽も伸びはじめて、山はまた賑やかな季節を迎える。





 日本一おいしいお米を育てる魚沼の里を見下ろす大沢峠の中腹にあるのが大沢山温泉大沢舘。正面に越後三山の巻機山を見はるかす展望の宿だ。木造の二階建てだが玄関へ入ると吹き抜きで、梁にかかるぶら提灯がずらりと並んで迎えてくれる。一人客でも部屋さえ空いていれば泊めてくれるところがありがたい。採算性だの効率だのと面倒なことを言わないのがこの宿の亭主のいいところ。

 


「お客さんがよろこんでくれるなら、何でもいいんですよ・・・」
 と実におおらか。気に入った客がいると夕食後、玄関脇の囲炉裏の間に呼び込んで、餅を焼いたり銘酒八海山を抜いて夜半まで語り明かすのが楽しみという豪快なところもある。それで身体を壊したりするところが家族にとっては心配の種とか。全ての発想が「お客さんが喜んでくれるなら」という一点にあり、ガラス張りの立派な内湯があるにもかかわらず、露天風呂を作ってしまった。雪の深いところなので屋根は付けてあるが吹きさらし。夜は雪洞一つと軒端に射す月の明かりで入浴をする。これがまた、たまらなく幻想的なのだ。朝は正面の巻機山の残雪を望みながらの爽快な入浴。清潔感のある切り石の湯船と流しの床には簀ノ子をまわしてあり、湧口からは透明なアルカリ性食塩泉が掛け流しになっているので寒い季節でもさほど冷えない。逆に冷たい風になぶられつつの入浴は、長く湯に浸かっていられるので身体がよく温まるようだ。湯上がりには自家製の甘酒が待合所に常備されているので、自由にノドを潤すことができる。女性など二杯三杯と飲む人もいて「無料」の魅力の大きさをあらためて実感する。






 食事は山家ながら新潟港が車で1時間そこそこという立地だから、海の幸も豊富。刺身や煮魚など結構良いものが味わえる。この家の自慢は何といってもご飯。魚沼産コシヒカリを特別に農家と栽培契約して作ってもらい、薪とかまどを使って炊き上げる。しかもおひつに移して食事処へ運んでくれるので、あらためてご飯の美味しさを実感させられる。電気釜のご飯に慣れた食感には、その重量感といい、一粒一粒が自己主張するようにしっかり口の中で立っているのに堅くはないという、本来のご飯の美味しさを再現している。かつて日本人はこんなおいしいご飯を食べていたのか・・・である。ビールなども桶にクラッシュした氷を詰めて瓶を活けて出すなど、心憎い演出もある。






 宿を出るとき火打ち石を打って旅の安全を願ってくれる心遣いも嬉しく、なんだかしばらく無沙汰していた親戚に帰ったようななつかしい気分になる宿だった。



住所/新潟県南魚沼郡塩沢町大沢
交通/上越線大沢駅からタクシー5分送迎あり
宿泊/大沢舘 0257・83・3773 1泊2食1万2000円〜


 
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